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ディーノ再び


「いってきまーす」
「は〜い」
「ヤベ。ディーノさんのカメ騒動のおかげで寝坊しちゃったよ」
「あら、わたしは何度も起こしてあげたんだけどな」


 へたな言い訳をする綱吉に揚羽が笑う。先に靴を履いて門からでると、揚羽は家の前に黒ずくめの男たちが並んでいることに気が付いた。彼らは銃の手入れなどをしており、平穏なはずの街並みがとても物騒になっていた。









‡標的23‡ ディーノ再び









「ボンジョルノ、お嬢さん」
「おはようございます、ロマーリオさん」


 揚羽に気付いたディーノの部下が挨拶をしてきたのでにこやかに挨拶を返す。自己紹介をしていないのに、自分の名前を返されたディーノの部下、ロマーリオは思わず目を剥いた。


「(ボスにでも聞いたのか?)ボスは迷惑かけませんでしたか?」
「えーと・・・」


 問われて、揚羽は思わず微妙な顔をしてしまった。
 風呂が壊れた後も、ディーノはうっかりやらしまったやらを、仕出かしては、落ちたり、物を壊したりと一晩中忙しなかったのだ。もちろん揚羽も被害に遭った。しかし、ディーノはあくまでも悪気はないのだ。よって『微妙な顔』だった。


「!」
「あらツナ」


 なんて、返そうか一瞬考えた間にやっと靴を履き終えた綱吉が出てきた。家の前の物騒な光景に目を剥いている。


(また家の前物騒だー!!!)
(いい加減なれないのかしら?)
「ボンジョルノ。ボンゴレ10代目」
「あっ・・・どうも・・・ディーノさんでしたら・・・」
「なんだおまえら。むかえなんか頼んでねーぞ」
「あら、おはようございますディーノさん」


 綱吉が「まだ寝てますよ」と続けようとすると、ちょうど起きてきたらしいディーノが顔を出してきた。


「誰もむかえになんてきてねーよボス」
「ん?」
「散歩してブラついてたらここについただけだぜ」
「オレもだ」
「オレも」
「駅前のホテルからかよ」
「くすくす」
「ぷっ(ディーノさん部下から愛されてるんだなーーー)」


 ディーノと部下のやり取りが微笑ましく、揚羽だけでなく綱吉も思わず顔を綻ばせた。


「おはよーございます10代目!!姐御!!」
(獄寺君!!)
「あら獄寺くん、おはよう」


 突然、後ろから大声をかけられ、綱吉は吃驚する。そこには、自称『綱吉の右腕』の獄寺隼人がいた。
 


「早起きしたのでブラブラしていたらここについちゃいました」
(同じこと言ってるー!!!)
「あら、ふふふ」


 微笑ましそうな顔の姉が先ほどのディーノと部下のやり取りに感じたことと同じことを思っているとわかって、綱吉はこそばゆい気持ちになる。


「それより何なんスか、この連中は?」


 獄寺は周囲の光景に、顔を顰めた。


「よぉ、悪童スモーキン・ボム。会うのは初めてだな」
「!そのタトゥー・・・跳ね馬のディーノ・・・!!」
(色んな呼び名があるんだなぁ)


 裏社会ならではのことなのだろう。初対面にも関わらず、自己紹介もなしにお互いを理解している二人に揚羽は感心する。


「ツナと獄寺じゃねーか」
「!」
「何やってんだおめーら、遅刻するぜ!!」
「山本!!」


 今日は、部活の朝練がない日なのでわざわざ一緒に登校しようと寄ってくれたのだろう。山本が綱吉と獄寺の肩を掴んだ。


「センパイもおはよーございます」
「おはよう、山本くん」
「ども」
「よ」


 揚羽たちと一緒にいたからだろう、ディーノにも当たり障りないあいさつをしてから「さっさと行こーぜ」と肩を組んだまま、綱吉達を押しやっていく。じゃれあうように歩く三人に揚羽はまた小さく微笑む。


「それじゃあディーノさんいってきます」
「おう、気をつけてな」


 わざわざ見送りに出てくれたディーノに、挨拶をしてから揚羽も三人の後を追った。
 後ろでディーノと家庭教師がとんでもないことを企てているとも知らずに。









******









「へ―――ディーノさんが?」
「ええ、あいつが先代が傾けたファミリーの財政を立て直したのは有名な話っス。マフィア、キャバッローネファミリーつったら今じゃ同盟の中でも第3勢力ですしね」
「へ―――っ」
「まだ若いのにすごいのね」


 獄寺の知るディーノの噂を聞かせてもらうと、かなりすごい人物なのが伺えた。しかし、揚羽にとっては、ボスとしての手腕よりも、それをひけらかさない気さくさのほうがとても魅力的だと思った。


「どっちにしろオレは好かねースけどね」
「え・・・な・・・なんで?」


 先ほどのディーノとのやり取り、噂の語り口から、獄寺もディーノには一目置いているように感じられたのだが、揚羽も首を傾げた。


「年上の野郎は全部敵スから」
(範囲広!!!)
「あらあら、じゃあ私も?」
「んな?!ち、違いますあくまで『野郎』だけっス。てか姐御は特別っス!!」
「あらあら」
(なんかすごい恥ずかしいセリフ言ってるー!!!)


 少し悪戯心が芽生えて、獄寺を揶揄えば想像通りの、むしろそれ以上の返答が帰ってきて揚羽は少し照れる。
 綱吉も、獄寺の爆弾発言に顔を赤らめ、三人して黙ってしまうが、それまで静観をしていた山本がポツリと呟いた。


「なあツナ、さっきマフィアって言ってたけど・・・」
「!」
「変な会社名だな」
「ぶはっ」


 山本の斜め上の解釈に揚羽が思わず噴き出した。
 ふと、背後から風を裂くような音が聞こえ、振り向くと赤いスポーツカーが猛スピードで迫ってきていた。


「姐御!」
「キャッ」


 四人の中で一番車道側にいた揚羽を側にいた獄寺が引き寄せる。スレスレで当たらなかったものの、揚羽は少しよろめいて獄寺に寄りかかる。
 しかし、それだけで終わらなかった。
 その赤い車がひどいスリップ音をさせて綱吉の横に急停車をすると、車の中からカウボーイが投げるような先が輪になっているロープが飛んできた。それは器用に綱吉をぐるぐる巻きに縛り付ける。


「え!?」


 そして加速をし、縄でつながれた綱吉毎あっというまに彼方へ消えていった。


「10代目!!」
「ツナ!!?」


 揚羽は獄寺の手を振り払い、赤い車の後を追った。


「姐御!?」
「センパイ!!」


 ほんの一瞬で綱吉の救出に向かった揚羽に、残された二人は唖然とする。


「姐御・・・素早い・・・」
「なのな」









******









「気に入ったぜ」


 綱吉を助けるために、躊躇なくヤクザの事務所に乗り込んでいった少年二人を見送って、誘拐犯、ディーノが言った。

「あいつらの頭にはツナを助けることしかねえ。冷静とは言えねーが信頼はできる」
「ぶはっ、何するんですかディーノさん!!」


 ロープで縛られたままで窮屈だったらしい、車から下ろされた綱吉が文句を言う。


「わりぃわりぃお前のファミリーを試させてもらったんだ」
「ためす・・・?」


 ディーノの言っていることの意味がわからず目を丸める綱吉。ディーノの部下がロープをほどいてくれたので、自由になった身体をゆっくり起き上がらせようとした。
 その時、


「ツナ・・・!」


 悲痛そうに自分を呼ぶ声に振り向く。


「姉さん!?」
「揚羽!?」


 そこには息も絶え絶えな揚羽がいた。


「よかった・・・!ツナ、心配した!」


 座り込んでいる綱吉へ、飛び込むように揚羽が抱きついた。その勢いに、綱吉は倒れそうになるのをなんとか踏みとどまる。


(まさか足で追いかけてくるとは・・・)


 綱吉にしがみつく揚羽を見て、ディーノは感心した。ディーノの愛車はほんの数秒で時速100キロ以上加速することができる。恐らく、彼女が目視で追えたのは数秒のことだろう。しかも、もとの場所へ戻ったとはいえ、山本や獄寺にバレないよう少し遠回りをしたのだ。その距離を彼女は自身の足だけで追ったのだとしたら見事な執念だ。









***









 あのあと、「お前は学校へ行け」というリボーンの無慈悲な言いつけで、揚羽は一人で登校していた。
 さすがに友人が心配の綱吉も、ディーノについてヤクザの事務所に乗り込んだ。心配する揚羽にディーノが「ツナのことはオレが守るから任せとけ!」と言ったのでしぶしぶ引き下がったが、かなり気がかりだった。ディーノを疑ってはいないのだが、確か彼は部下がそばにいなかったように思う。


「ツナ・・・怪我してないといいけど」
「やあ」


 綱吉のことが気がかりで上の空のまま登校していたら、声をかけられた。彼の顔を見て、正直、やっちまった、という言葉しかでてこない。


「お、おはよう・・・・・・・・・雲雀くん」
「うん、おはよう」


 声をかけられたのは校門で、揚羽はいつもの習慣で普通に通ろうとしていたが、先程のゴタゴタのせいで、始業時間はとっくに過ぎていたのだ。つまり、


「堂々と遅刻かい?いい度胸だね」
「デスヨネー」


 これに尽きる。


「今日は遅刻者がいなかったから、一番の獲物だよ」
「わー嬉しくないなー」
(のんきに構えてる場合じゃないぞ柚木ー!)


 危機感のない揚羽の返しに実は側に控えていた草壁が内心でツッコミを入れた。
 どこからか出したトンファーを構える雲雀に揚羽は諦めムードだった。理由はどうあれ遅刻したのは確かだからだ。


「・・・君、それ痛くないの?」
「え?」


 トンファーが飛んでくるかと覚悟していたら、雲雀の視線は下に向いていた。揚羽はなんのことかと、視線を下げてやっと気付く。


「ひざ、血まみれだよ」
「わあ痛い(涙)」


 まったく気付かなかった。
 揚羽の両膝は抉れていて、そこから流れた血は紺色のソックスをさらに深い色に染めているほどだった。
 心当たりはある。連れ去られた綱吉を追いかけ、車が止まったあと彼に抱きついたとき、確かにコンクリートにひざをゴリゴリと擦った覚えがある。ただ、綱吉が浚われて興奮状態だったため、痛みを感じなかったのだ。


「だ、大丈夫か?柚木」
「うん、痛い〜(涙)」
「うん、大丈夫じゃないな?!」


 一度気付いてしまえば、痛みはますばかり。片足なら無事な足で歩くものだが、怪我は両足にある。足を曲げるのも痛く、揚羽は立ちすくむしかなかった。現実逃避か、ニコニコと笑っているが、その顔は蒼白に血の気が引いている。
 優しい草壁だけが、慌てていた。


「とりあえず、保健室に・・・」


 ひょい。


「え゛?」


 揚羽と草壁の疑問符が重なった。
 草壁が提案を言い終わる前に、棒立ちで動けなくなってしまった揚羽をいきなり雲雀が横抱きにしたのだ。


「副委員長、ここは頼んだよ」
「え?は、はい!」
「え?え?」


 そういうと、雲雀は颯爽と歩いていく。抱き上げられた揚羽と場を任された草壁は固まって呆気にとられてしまった。


(か、咬み殺さないのか?)









***









(どーゆーつもりなんだろ・・・)


 揚羽の体重をものともせずに、雲雀は軽快に歩みを進めていた。揚羽はというと、てっきり咬み殺されると思っていたので、まだ戦々恐々と彼の出方を伺っている。
 咬み殺すのをやめたのか、それとも人気のないところで咬み殺すつもりなのか。ただ、なんとなく後者ではない気がした。本当に咬み殺すつもりなら雲雀は校門で即座に実行するだろう。何故なら彼は世間体をまったく気にしないし、やりたいことは我慢しないタイプだ。
 ちなみに、揚羽が怪我をしているから。という理由はありえないと考えている。何故なら咬み殺されればもっと酷い怪我になるのだから。


「何があったの?」


 ふと、話しかけられて、ほぼ金縛り状態だった揚羽はなんとか彼の問いに応える。


「えーと・・・雲雀くん、桃巨会って知ってる?」
「最近すこし調子にのってる会だね」
(調子にのってる?)


 揚羽は包み隠さず話した。リボーンのいたずらで、綱吉が浚われそうになりその際揚羽は怪我をした。そして、綱吉が浚われたと勘違いした山本と獄寺が実在するヤクザの本拠地に乗り込んだ。と。
 ややこしくなりそうなので、ディーノのことは伏せて、リボーンのせいということをだいぶ強調した。


「ふーん。なるほどね。じゃあ赤ん坊もそこにいるんだね」
「う、うん・・・(なるほど?)」
「僕の並盛を自分のシマだって言ってるみたいで、ちょうど目ざわりだったんだよね」
「そ、そーなんだ〜」


 「誰が?」なんて、彼の言葉の意味はいちいち聞かない。聞かないほうがいいこともあると揚羽は思っている。


(ん?)


 揚羽は自分に触れる雲雀の手の感触に違和感を覚える。


「ここまででいい?」


 声をかけられてハッと首を横に向けると、保健室の目の前だった。


「うん。十分だよ。ありがとう」


 揚羽が礼を言うと、雲雀がゆっくりとそこに下ろした。傷に障らないようにしたその動作に揚羽は痛みを忘れるほどとてもびっくりする。


「じゃあ僕はいくから」
「え?あ、うん。ほんとにありがとう。でも、ちょっとまって!」
「?」


 引き留められて雲雀は首を傾げる。
 ピタリ、と揚羽が雲雀の額に手を当てて「やっぱり」と呟いた。


「ちょっと熱があるんじゃない?雲雀くんも一緒に保健室いこ?」
「・・・なんで」


 訝しげに眉を寄せる雲雀に一瞬たじろいだが、揚羽はなんとか続きを紡いだ。


「この間だっこしてくれたときより手が熱い気がしたから。具合とか悪くない?」
「・・・へいき。君の手が冷たいだけじゃない?気のせいだよ」
「・・・そう?」
「うん。じゃあね」
「え、あ・・・いってらっしゃい。気を付けて」


 確かに雲雀は涼しげな顔をしていたが、まだ気にかかってそういうと、雲雀が少し目を瞠って、じっと揚羽を見た。


「なあに?」
「・・・べつに」


 揚羽が首を傾げてきくと、雲雀はふいっと顔を剃らした。何か言いたげだったように思えたが、雲雀はそのまますぐに立ち去ってしまったためわからなかった。


「おーい、いつまで立ち話してんの?」
「あ、シャマル先生」


 立ち去る雲雀の後ろ姿をなんとなく最後まで見送っていると、保健室のドアが開いて中からシャマルが顔を出した。
 なかなか、中に入らない揚羽に業を煮やしたようだ。


「いらっしゃい揚羽ちゅわ〜ん。待ってたよ〜!って、ウゲ!想像以上に酷いな」


 ハートマークを飛ばして唇を寄せてきたシャマルは揚羽の怪我の具合に顔をしかめた。


「ただのかすり傷ですよ?」
「女の子の身体についた傷は全部重症なの」


 めっ、と、傷を軽んじる発言をする揚羽をシャマルが比較的厳しく嗜める。


「傷が残ったらどーすんの」
「はーい」


 すぐに揚羽を流れる仕草で横抱きにすると、中のベッドへ座らせる。痛みを感じさせなかったのは流石だと思った。
 揚羽は度重なる姫待遇にくすぐったくなって、クスクスと笑う。


「まずは消毒だな。しみるぞ〜?」


 棚から慣れた手つきで消毒液や包帯を取り出すシャマルの言葉に、自分にふりかかる苦痛を予測してしまい揚羽は表情を苦くする。しかし、それより気にかかる言葉があった。


「そういえばシャマルせんせ。「待ってた」って?」


 「想像以上に」とも言っていた。まるで揚羽の怪我のことを知っていた風だ。


「ん〜?あー・・・」


 シャマルはあからさまに「しまった」という顔をした。


「まぁなんつーの?匿名希望のタレコミって奴があったのよ」


 匿名だなんて、そんなの誰かなどわかりきっている。先ほどの雲雀とのやりとりの違和感といい、揚羽はその意味を悟って顔が熱くなる。


「ふふっ」


 溢れる嬉しさから、思わず笑みがこぼれる。頬を染めて微笑む揚羽に、シャマルはやれやれと肩を竦めた。


「まあったく、アイツぁ美味しいとこばっかもってくよなぁ」


 からかうような言いぐさに揚羽は照れるでもなく、やはり満面の笑みを浮かべた。
 それにすっかり毒気を抜かれたシャマルは、馬にゃ蹴られたくねえや。と、大人しく膝の治療を始めた。









(「しみる」と言われたわりにはその薬は痛くなかった)








 〜おまけ〜


『揚羽には会えたか?』
「あぁ、普通に校門まであるいてきたから保健室につれてったよ。保険医がみたんじゃない?」
『そうか。助かった』
「ふーん。彼女のこと。ずいぶん大切なんだね」
『マフィアは女を大切にするものだぞ』








 リボーンが怪我のこと電話してました。

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