跳ね馬ディーノ
「あのー通して貰えませんか?」
「ダメだ!」
揚羽は目の前に蔓延る黒にため息をついた。
(またリボーンちゃん関係ね)
いかにも。な、強面の黒スーツを着た集団が家の前を塞いでいた。名探偵でなくとも、これがあの家庭教師の仕業だとわかる。
「今は沢田家の人間しか通せないんだ」
しかし、怖い顔に似つかわしくなく、丁寧に説明をしてくれる。
「だったら、私は・・・」
言いかけたとき、
「ぐぴゃ」
ランボの声がしたかと思うと、ぽーんと窓辺から黒いものが飛んでくる。
「バカーーー!!」
ランボに向けられたであろう綱吉の罵声に、それが手榴弾だと気付くより早く、揚羽は叫んでいた。
「危ない!ふせて!」
手榴弾は真上に飛んできた。重力によって落ちてくるので、ふせるだけでは真下にいる人たちは心許ない。しかし、揚羽が叫ぶと同時に、綱吉の部屋から誰かが飛び出した。
揚羽は青年の美しい金髪に目を奪われた。
‡標的22‡ 跳ね馬ディーノ
「さっきの声はあんたか?」
「え?ええ、まあ」
話しかけられて、はっとなる。落ちてきた手榴弾は窓から飛び降りた目の前の青年が鞭で捉え、上空へ弾き飛ばした。その鮮やかな手前に思わず見惚れてしまった。
青年は一目で日本人ではないとわかる見事な金髪と鳶色の眼をしていた。
「お陰で俺の部下に怪我はなかったぜ、ありがとな」
「そんな、私のほうこそ助けていただいてありがとうございます」
揚羽は深々と頭を下げた。青年が手榴弾を遠ざけなければ揚羽だって怪我をしていたかもしれない。
そのことに、改めて感謝の言葉を送る。
「姉さん!だ、大丈夫?」
綱吉の焦った声に顔を上げれば、窓から顔をだしているのが見えた。揚羽は安心させるように、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫よ。ツナ」
「なんだ、ツナの姉さんだったのか!」
「大変失礼いたしました!」
「そんな、いいですいいです」
金髪の青年がニカっと笑いながら言うと、周りにいた黒服たちが畏まるので、揚羽は首をふってそれを嗜める。
どうやら、無事に自宅へは入れそうだ。
「どうぞ」
玄関を開けてディーノを中に招待する。付き人らしい黒服の男たちは踵を返し去っていく。
「それじゃあボス。可愛い女の子がいるからってヤンチャすんなよ」
「ばっ!なに言ってんだてめーら!彼女にも失礼だろ!」
去り際の言葉に真っ赤になって怒るディーノに笑ながら、黒服たちは帰っていった。その様子を見て揚羽もクスクスと笑う。
「みなさん、仲がいいんですね」
「悪かったな。あー・・・」
「揚羽と申します。気にしてないので大丈夫ですよ」
「ならよかった。オレはディーノ・・・と、うわ!」
「え?」
会話をしながら玄関で靴を脱いで上がっていると、ついてきていたはずのディーノが玄関の段差につまづいて転んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「悪い!玄関で靴を脱ぐ習慣がなくてな」
「ははは」と笑いながら靴を脱ぐディーノにそういえばさきほど、2階から飛び降りたときに彼は靴を履いていた。
「そうなんですか。怪我がなくてよかった。気を付けて下さいね」
「おう!」
にっこり笑って、綱吉の部屋へ向かう。
(でも、段差でつまずくのとは関係ないような・・・?)
ふと、過った疑問には蓋をして。
***
「リボーンちゃんの元教え子?」
無事家に入ることができた揚羽は夕食をとりながら、命の恩人の青年ーーーディーノの話を聞いた。
「それって何年前のことなんですか?」
「えーっと確か」
「まあそれはいつだっていいじゃねえか」
数少ないリボーンの情報を知る人物。揚羽はドキドキしながら聞いたが、あっさりとリボーンにかわされる。
「さー何でも聞いてくれ。かわいい弟分よ」
「え・・・!」
ディーノの矛先が自分にかわり、綱吉がアタフタとする。その顔は複雑ながらも嬉しそうだ。
揚羽も綱吉に好意的なディーノを好ましく思った。
「そーいやツナ、おまえファミリーはできたのか?」
「今んとこ、獄寺と山本。ヒバリと笹川了平と・・・」
「友達と先輩だから!!」
「少なくとも、雲雀くんはムリそうだよね」
ディーノの質問へのリボーンの返答に、綱吉と揚羽がツッコミを入れる。
「ていうかリボーンなんでオレなんかのとこ来たんだよ。ディーノさんとの方がうまくやってけそうなのに」
「ツナ、『なんか』っていうのやめなさいって」
「ボンゴレはオレ達同盟ファミリーの中心なんだぜ。何にしてもオレ達のどのファミリーよりも優先されるんだ」
「えええ!!!ボンゴレファミリーってそんなにえらいの〜!?」
「そーだぞ」
「さらにブルー」
「そこで「ラッキー!」とならないのがツナよねー(ていうかそれより)」
揚羽は別のことが気にかかった。
「まあディーノ君。あらあらこぼしちゃって・・・」
「うわっ」
(それな)
綱吉はリボーンとの会話で気づかなかったみたいたが、食事を始めたディーノがものすごい勢いで食べ物をこぼしたのだ。これには揚羽もぎょっとした。口に運ぶよりこぼす量のほうが多い。
「ディーノは部下がいねーと半人前だからな」
「はあ!?」
リボーンの説明では、ディーノはファミリーのためやファミリーの前でないと力を発揮できない究極のボス体質なのだそうだ。
(あー・・・だからかー)
揚羽はさきほどの玄関での出来事に納得した。納得していないのは本人のディーノだ。
「またリボーンはそーゆーことを・・・ツナと揚羽が信じるだろ?普段フォークとナイフだからハシがうまく使えねぇだけだよ」
「な・・・なーんだそーですよね!!」
ディーノの『言い訳』にツナはほっとしたようだった。リボーンに嘘をつくなと文句を言っている。
リボーンは確かに嘘をつくことが多い。しかし、揚羽はその言葉が嘘には思えなかった。
「じゃあフォークとナイフを出しますね」
「あぁ、わりーな揚羽」
リボーンの言葉の真偽がどうであれ、ハシに慣れていないのは本当だろう。少しでも食べこぼしが減るのなら、フォークとナイフを出したほうがいいと揚羽は食器棚に手をかけた。
しかし、そこに母の悲鳴が響き渡る。
***
「なにあれ?●゛メラ?」
「あ・・・ありえないって・・・!!」
「あちゃーエンツィオの奴いつのまに逃げたんだ?」
「エンツィオ?」
「オレのペットなんだ」
「えーっ、あれさっきのカメなのー!?」
「カメ?」
「そーだぞ。エンツィオは水を吸うとふやけて膨張するスポンジスッポンだ」
「え、スッポンなの?カメなの?」
母の悲鳴に慌てて駆けつけたら、大きな甲羅を持った生き物が風呂場で暴れていた。
「じゃあ私はお母さんを休ませてくるね」
「えっ?姉さん?」
「頼んだぞ揚羽」
「じゃ、がんばってねツナ」
「えーっ!?」
風呂場で暴れるそれが何か、揚羽には興味がなかった。それより何より、気絶した母を安全なところに移動させたかった。このままここにいると、よくない気がしたのだ。案の定、母には弱いリボーンにも提案を否定されなかった。
揚羽は奈々を背負い。その場をあとにした。
三十六計逃げるに如かず
(ところで結局エンツィオはカメなの?スッポンなの?)
(気にするとこそこー?!)
たぶんディーノさんはヒロインの好みにだいぶドンピシャです。
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