イーピン
揚羽は困っていた。
「あの・・・私に何か用ですか?」
「そんな怖がらないでよお嬢さん♪」
「へへへ」
なんと、不良に囲まれていた。
(うーん、結構マジメに生きてるつもりなんだけどなぁ)
ただ、ナンパではなく、揚羽個人に用がある様だったので、落ち着いていた。
「お前・・・ヒバリの女だな」
「いいえ、人違いです」
にっこり。極上の笑顔で即答した。まったくもって心当たりがない。不良が少したじろいだのが見えた。それはそれで失礼な。
「この間、ヒバリが女を連れてたってお前のことなんだろう?」
うむ。バッチリ心当たりがある。
しかし、たった一回一緒に出掛けただけで、こんなにも情報が出回るものなのかと感心する。どんだけ女っ気がないんだ。と思ったが、確かに風紀委員は全員男子だ。そして、風紀委員以外が彼に近付くのを揚羽は見たことがない。
(さて、どうしようかな)
「一緒に来てもらうぞ」
「なぁに、大人しくしてたらアンタに危害は加えねぇよ」
「ゲヒゲヒゲヒ」
(えぇー・・・?)
途中までなら、まだ言うことをきくという選択肢もあったかもしれないが、最後の文字通り下卑た笑いでそれは完全に消え失せた。
‡標的21‡ イーピン
「えーと、ありがとう?」
揚羽はしゃがんでお礼を言った。
ペコリ。
突然、揚羽の頭上を飛び越えて、赤い服に特徴的な弁髪の赤ん坊が揚羽と不良の間に立ちはだかった。危ない!と思ったときには、不良たちはひっくり返って泡を吹いていた。
「スゴイね。手も触れずに倒しちゃうなんて」
揚羽のお礼が疑問系だったのはそこにある。赤ん坊が手をグリグリ回したかと思ったら、三人いた内の不良の一人が連動するように自分から回転してふっとび、残り二人はお互いに頭をぶつけ合ってのびてしまった。
「ちいさいのに、凄い強いんだね」
もう一度、今度は「ありがとう」とハッキリ言えば、赤ん坊がキッと目を細めて顔をしかめた。
(目が悪いのかな?)
そのまま、赤ん坊は引き留める揚羽の声も無視して逃げるように走っていった。
(恥ずかしがり屋さんなのかなー?)
誤解というものを知らない揚羽であった。
「それにしても・・・」
これどうしよう。と、のびてる不良たちを見てちょっと途方に暮れる。
「ワオ」
聞き覚えのあるフレーズに揚羽は振り返る。
「これ、君が倒したの?」
「いやいやいや、違う違う」
何で嬉しそうにトンファーを構えるんだ。揚羽は全力で首を横に振った。
「絡まれたの。雲雀くんのせいだよ」
「そんなの知らないよ」
先程絡まれた原因の雲雀に揚羽は文句をつける。もちろん、雲雀が気にも留めないだろうと見越してのことだ。そしてやはり、あっという間にスルーされる。彼の興味はすでに不良を倒した何者かに移っているようだった。
「これを倒した奴は強いんだね」
「まだちっちゃい子だったよ?」
「ワオ。ますますいいね」
きっと彼の脳裏には我が家に居座る家庭教師が浮かんでいるのだろう。
「ちぃさい子に暴力はダメよ」
「そんなの知らないよ」
「ふーん」
雲雀の目に余る発言に、揚羽はうろん気な視線を送る。
「それが女の子でも?」
「 関係ないね」
すました顔で言われたが、一瞬の間があったことを揚羽は見逃さない。
ニヤニヤと見ていたら、気付いた雲雀がトンファーの先で揚羽の頭を軽く小突いた。酷いと思う。
***
「ただ〜いま〜」
「何もここまでしなくても」
「何言ってるんスか。10代目を殺しにきた奴ですよ」
「あれ?この子どうしたの?」
帰宅した揚羽は特徴的な弁髪を見つけた。縄でグルグルに縛られていて、揚羽は顔をしかめた。
「姉さんコイツ知ってるの?」
「ええ。今朝、不良にからまれてるところを助けてくれたのよ」
「ええええ!?」
まさか『ヒバリの女』と勘違いされて絡まれたのだとは言えなかった。余計な心配はかけまい。
「今朝はありがとうね。・・・えーと、なんていうのかな?」
「名前はイーピンだって」
聞いたイーピンではなく、綱吉が答えた。どうやらイーピンは日本語がよくわからないらしい。簡単な言葉ならわかるそうだが。
「ありがとうね、イーピンちゃん」
あらためて、しつこいくらいの感謝の言葉を贈る。この子は良い子なのだというアピールだった。
「やっぱり根はいいやつなんだよ」
案の定、綱吉はほだされたようだった。しかし、敬愛する綱吉を狙う人間ということで獄寺はイーピンを許すことを是としなかった。
「おまえ、この写真の奴を殺せって言われてきたんだろ?」
ふと、沈黙していたリボーンが口を開いた。問われたイーピンがコクリと頷く。揚羽は件の写真とやらを横から覗いた。
「これはツナじゃないぞ」
「あらホント」
リボーンの言葉に驚いた様子のイーピン。悪いが、揚羽は写真を見て噴き出してしまった。
「な?」
「あ・・・!」
リボーンに渡された写真を受け取った綱吉と獄寺もそれを見て絶句した。
「誰だよこれーーー!」
「・・・ぷっ、クク、くふ、フ・・・アハハハハハ!!」
そこに写っているのは似ても似つかぬ別人だった。
イーピンはド近眼だった。
「まだまだ未熟だな」
こうして、未熟な己を鍛練すべく、イーピンは日本で修行をはじめたのだった。
心優しき殺し屋
(姉さん、笑いすぎ!!!)
(ごめ・・・!でも、ツボった〜!)
雲雀はイーピンが女の子って知ってたのかな?という妄想をしたらうっかり雲ピンに萌えてしまった管理人です。あ、ごめんなさい自重します。
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