あるのに見えない(16了平生誕)拍手ログ
(匂いのように、痛みのように、薄れてーーー)
自分は昔からくじ運が悪い方だとは思っていたが、よりによって何故彼女にバレてしまうのだろう。了平は自分の不運を嘆いた。
いつもの如く練習中に怪我をしてしまった了平。本人的には平気なのだが、周囲が誰一人として保健室へ行かなくていいとは言わなかったため、しぶしぶ治療にきたのだ。そして、たまたま怪我をした後輩を連れてきてたらしい揚羽と鉢合わせした。
「あなたが自分をどうしようと、わたしに止める権利なんてないわ」
そして案の定。彼女は了平の怪我をお気に召さなかったようだ。すでに治療が終わっていたらしい後輩を先に帰して、彼女は手際よく了平を座らせた。
自由にしたら?つん、とすました、少しも納得してない顔でありながら、彼女が言った。もちろん、納得してはいなくとも、それもまた彼女の本音なのだろう。
「だから、あなたが自分を大事にしないことにわたしが腹をたてたって、それもわたしの勝手なのよ」
だからきっと、これも彼女の心からの言葉なのだろう。
【あるのに見えないもの】
消毒液の匂いに囲まれながら、了平は大人しく治療されていた。保健委員でもないのに、手際よく包帯を巻いていく揚羽はもう怒ってはいないようだったが、まだ安心はできない。
「そういえば、」
ほらきた。と、了平はどきりとする。
「笹川くんって、わたしのこと誘ってくれないのね」
揚羽の唐突な台詞に、了平は先ほどとは違う意味でどきりとしてしまう。
「ツナにはあんなに熱心なのに」
それを聞いて了平は安堵する。男としてそれもどうかと思うが、やはり心の平穏は大事だ。というか、今、聞き捨てならないことを聞いた気がする。
「ボクシング部に入っ」
「まぁ誘われても入らないけど」
入ってくれるのか、と思いきや肩透かしだ。
「蚊帳の外みたいで少し寂しいのよ」
ごめんね。彼女が謝ってるとは思えない笑顔で謝った。
大人しく手当てされながら、了平は考えた。何故自分は彼女をボクシング部へ誘わないのか。考えたこともなかったので、自分でも不思議に思う。ボクシングを愛する心があれば、了平は男女問わず受け入れる心づもりなのだから。
「お前は良いのだ」
彼女が拳をふるう姿を想像しようとしたが、うまく出来なかった。
治療が終わった手を握ったり開いたりして確認する。まだ少し痛むが、問題はないだろう。
「ボクシングは神聖なスポーツではあるが、お前に拳は似合わん」
だからそういうことなのだ。
そういうと、揚羽は困ったように笑った。
「笹川くんって、意外とわたしのことよく見てるよね」
その言葉にまた心臓が跳ねてしまう。
鐘が鳴るのはまだ早い
(いつかこの記憶も笑って話せる日がくるのだろうか)
兄やんおめでとー!
掲載日(16/08/09-16/08/26)
夢主は兄やんの中で京子ちゃんと同じポジションです。
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