[携帯モード] [URL送信]
保育係


「はーあ、今日もチンプンカンプン」


 起きて教科書を眺めてはいたが、まったく理解できない授業内容に綱吉は辟易する。気が向いたら家に帰ってから姉に聞こうかと毎回少しは考えがよぎるのだが、たいていは家についた途端に、また今度虫が顕れてそんな気は消え失せるのだ。


「何あのかっこ・・・」


 ふと、教室の中がざわつく。


「シマウマ?」
「パンダじゃない?」
「私は牛だと・・・」

「うし?」


 振り向いてしまったのは、無意識にその言葉に心当たりがあったからだろう。


「ガ・マ・ン」
「ランボ――!!!」


 そして振り向いた先では、牛柄にアフロの子供が涙目で股間を押さえていた。そんな奇抜なファッション疑うことなくランボだ。相変わらず意味不明な登場の仕方だ。


「ツナ・・・チャックがこわれて、しっこできない・・・・・・」


 謎の登場姿の意味がわかった。正直、わかりたくなかった。


「何やってんだよ!早くトイレ行けよ!」
「お。ガハハハ、リボーン発見!!」
「お前、今それどころじゃないだろ!?漏れそうじゃなかったのかよ!」


 先程までの哀れな涙が嘘のように、リボーンを見つけた途端、その喜びを現すランボ。嫌な予感しかない。


「漏らしたー!!ツナの弟かよーっ」


 案の定不安は的中し、大泣きしながら濡れた服でこちらにくるランボ。くらり、と目眩がした。









‡標的20‡ 保育係









 濡れたままの姿で歩き回ったせいで廊下はビシャビシャになり、何故か抱きついてきたため制服は汚れてクラスメートにからかわれ、何故か汚れた床を綱吉が掃除させられたりと、散々だった。


「もーたまんないよ!!母さんがランボをちゃんと見てないから、悪さばっかりするんじゃないか!!」


 ていうか、まず何故自分のところにくるのか甚だ不思議だ。リボーンを狙っているにしても、自分と関わる必要は皆無のはずだ。そんな苛立ちを籠めて綱吉は奈々を非難した。


「母さんに怒るのはおかしいんじゃないのかしら・・・」
「そうよ、ツナ。お母さんは悪くないわよ」


 憤る綱吉に苦笑する奈々を、すかさず揚羽がフォローする。綱吉の主張は奈々とはまったくの無関係の言いがかりだった。そもそもランボは沢田家の子供ではないので、奈々が面倒を見る義理はないのだ。


「情けない男ね。そんなに嫌なら、アホ牛に保育係をつければいいでしょ?」
「保育係!?」


 脳裏に浮かんだ、ランボの手綱を引く陰影に、自然と揚羽の姿が重なる。


「そうだ!姉さんがランボの面倒みてくれたらいいじゃん!」
「そうしてあげたくはあるけど、私も授業とか部活があるし」
「だよねー・・・」


 にべもない。がっくし、と綱吉は肩を落とす。むしろ、部活動や委員会活動がないぶん綱吉のほうが時間に余裕があるだろう。


「オレの知り合いの保育係を手配してやろーか?」
「まっまじで?だ、だってお前、ランボの事はいつもシカトしてんじゃねーか・・・」
「ツナの勉強がジャマされるのはオレも困るからな」
「リボーン・・・」
「よかったわねぇツナ」


 嬉しそうに顔を明るくさせる綱吉。微笑ましいやり取りに、揚羽の頬も思わず緩んだ。
 しかし、リボーンの思惑の深さを、二人はまだまだ知らない。









***









「ちょっあの・・・」
「なんスか?10代目?」
「小僧に呼ばれたんだが」
「いや」


 目の前できょとんとしている二人には悪いが、自分にも何がなんだかわからない。そしてただ一つわかることは、リボーンの言葉を額面通りに受け取ってしまった自分が間違っていたということだけだ。


「おいリボーン話が違うだろ」
「ん」
「ランボの保育係紹介してくれるんじゃなかったのかよ!!?」
「紹介してんじゃねーか。ボスであるお前の部下(ファミリー)から決めるにきまってんだろ」
「え?だったら姉さんでもよかったじゃん!」
「ボスたるものファミリーの部下を使えてなんぼだからな」
「何わけわかんないこと言ってんだよ!」


 確かに、揚羽はファミリーにはしない。と以前断言していたが、友人たちの中なら選ぶなら結局は綱吉に関わってくるのでは、と疑念が残る。


「つーかこの2人が候補ってどうなの〜!!?」


 嫌な予感しかしない。そして、そんなときは大抵あたるのだ。









***









 結局、見るからに適正のない獄寺はともかく、人当たりのいい山本ですらランボをあやすことはできなかった。むしろ抹殺する勢いで泣かせてしまった。
 泣きわめくランボの声を聞き、たまたま部活の交流試合で訪れていたらしいハルがかけつけた。


「ハ、ハルが新体操部〜!!?」
「イメージできん・・・」


 いつもそそっかしいハルが新体操をしている様が想像つかなかった。
 しかし、綱吉だけはあることに気付く。


「あれ?新体操部だったら・・・」
「ハルちゃん!やっと見つけた!こんなところで何を・・・って、あれ?ツナ?」
「あ!姉さん!」


 部活中なのだろう。ジャージ姿の揚羽が小走りでやってきた。


「急に消えるからビックリしたわ。他の緑中の部員さんもハルちゃんのこと探してたわよ」
「はひ!揚羽さんすみません!ランボちゃんの泣き声が聞こえてきてつい」
「姐御って、新体操部だったんですね」


 揚羽の入っている部を今初めて知った獄寺がしみじみと呟いた。指摘されて、悪戯がばれた子女のように、揚羽がコロコロと笑う。


「ふふ。そうなの。だからハルちゃんのことも実は前から知ってたのよね」
「はひ!初めて会ったときハルのこと知ってて、とってもサプライズしました!」
「あの時はごめんね。でもわたしはすぐ気付いたのに、ハルちゃん全然気付いてくれないんだもん」


 試合で会ったことがあるのよね〜。とのんきに頷き合う二人は微笑ましいが、意外なところで接点があるものだと綱吉は感慨深く思う。


「そんなことより!こんないたいけなチャイルドを泣かせるなんて!」


 般若の如く憤るハルの横から揚羽がつつつ、と綱吉ににじりよる。


「ていうかなんで皆の中から保育係を選んでるの?知り合いの保育係は?」
「コイツらのことだぞ」
「え?それって意味ない気が・・・」


 コソコソと話す揚羽に、リボーンが横からキッパリと答える。
 揚羽の感想はまさしく綱吉と同じだった。


「たとえツナさんでも、ランボちゃんをいじめたらハルが許しません!!」
「まぁハルちゃんカッコいいわ」
「アイツが一番保育係に向いてるな」
「言えてる」
「じゃあ奴が右腕・・・?」


 マフィアどころか女子に負けた事実に、獄寺が青ざめる。しかし、ハルの勇ましさもそこまでだった。









***









 ガマンの限界だったのだろうランボが、10年バズーカを取りだし自分に撃った。そして現れた10年後のランボを、ハルはあろうことかビンタしたのだ。


「胸のボタンしめないとワイセツ罪でつーほーしますよ!!」
「こ、これはファッションで・・・」
「なんか全体的にエロイ!!!」
(ハル・・・大人ランボ、ダメなんだ)
(純朴ねぇ)


 どうやら胸元を広くはだけさせたランボの格好がハルには刺激的だったようだ。


「ハル、わかるぞ!おまえの言う事はもっともだ。それに何だこの変てこな首輪は」
「え」
「おめーは鼻輪が似合ってるんだよアホ牛!!」
「ええ!」
(獄寺君のはただのイジメだー!!!)
(いじめっ子ねぇ)


 『親愛なる』ハルにビンタされ、獄寺に謂れのない暴言を吐かれた10年後のランボはショックを隠しきれない様子だった。


「オ・・・オレ・・・失礼します」
「おー帰れ帰れ!!」
「ちょ、ちょっと獄寺君!」
「ガ・マ・ン」


 追い打ちのような獄寺の台詞に、フラフラと去っていくランボを姉弟は冷静に眺める。


「大人ランボっていつもみじめだな」
「十年後なら15、6歳だからそんなに大人でもなくない?」


 本人にとっては本気で辛いのだろうが、端から見ている分には憐れを通り越してなんだか愉快だ。
 ふと、ランボの裾から何かが落ちたことに山本が気付く。


「おいお前、角落としてるぞ」
「あ・・・投げてください」
「あいよ!」
「あ!」
「え?」


 ランボの要望通り、山本は投げた。それも、全力投球で。
 さすが野球部、としか言いようのない豪速球がランボに向かう。油断していたランボは避けることもできず、見事に角の先端部分が額にめり込む。そのまま勢いは衰えることなく、ランボは撃ち抜かれた林檎のように後ろに転倒した。


「わっ!わりぃ!!」
「ランボ!!」
「え?え?何事!?」


 普段の温厚な山本らしからぬ蛮行に、揚羽はびっくりする。殺意すら感じた行為は、獄寺のイジメなんて可愛いものだと思った。
 リボーンが後ろから面白げに解説する。


「山本は投げる動作に入ると加減が出来なくなるそうだ」
「何それ!怖っ!?」


 ていうか、チームプレーの野球においてその癖はどうなんだろう、と思う揚羽であった。


「が・・・ま・・・うわぁああああ!」
「結局こうなるのか・・・・・・・・・」
「やっぱツナが面倒みるしかねーな」
「お前最初からそのつもりだっただろー!!」
「仕方ないなぁ私が面倒見るわ」


 見かねた揚羽の言葉に待ってましたと言わんばかりに綱吉が喜ぶ。


「姉さんは適任だと思うよ!」
(あの顔は「面倒事押し付けれる〜!」って顔ね)
(面倒事押し付けれる〜!)


 何かあんまり嬉しくないな。と思いながら、揚羽は赤く染まったランボの額をハンカチで撫でてやる。


「ランボちゃん痛かったわねぇ、よしよし」


 もう大丈夫よ。と、優しい笑顔で言われたランボはますます涙を溢した。


「親愛なる10年前の揚羽さーん!うわぁああん!!」
「やっぱり姉さんは適任だ」
「あらあら」


 怪我の手当てをしようとした揚羽の腰にランボが抱きつく。それを見て綱吉も、うんうんと納得する。


「俺たち一緒にお風呂に入った仲ですもんね!」
「んな!?」
「あらあら」


 ランボの爆弾発言に綱吉は驚き、揚羽は一瞬頬を赤くする。追求しようにも5分経ってしまったらしく、ランボはもとの子供に戻ってしまった。が、すぐに揚羽はあることに気付く。


「そういえば、つい昨日のことねー」
「はぁ?!」
「ツナがランボちゃんの面倒みたくないってお風呂拒否ったから私が一緒に入ったじゃない」


 そういえば。と、綱吉も納得する。昨日の夜、服に粗相されたことを根にもって、ランボを風呂に入れるのを姉にしてもらったのだ。ランボがやたらと『おっぱいが〜でっかーい〜♪』と歌っていたのを思い出す。
 綱吉は揚羽の腕でご機嫌になっている小さなランボを強奪した。


「今後ランボの面倒は俺がみるから!!!!!」
「え?何なに?」
「姉さんは何もしないで!」
「急にどしたの?」


 文字通り面倒事が嫌いな弟の突然のやる気に、揚羽はびっくりする。










(どういう風の吹きまわし?)
(べ、別になんだっていいだろ)
(シスコンが)
(うるさいぞリボーン!)










 〜おまけ〜


「そういえば揚羽さんとお風呂に入ったの1回だったかも」


 なんでだろう?と未来で首を傾げる十年後ランボだった。













自業自得だよランボさん!←
というわけで、無駄な裏設定。夢主はハルと同じ新体操部所属でした。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!