雲雀恭弥 (なーぁんか) くだらない。その一言に尽きる。 ‡標的16‡ 雲雀恭弥 (『ごっこ』って感じ) 委員会の定例会議。本日の議題は2学期からの各委員会が使う部屋割りだ。環状に設えた机に向かい合うように座り、討論しあうものだが、その実はすでに決定された内容をそれぞれの代表者が確認しているというものだ。わざわざこのように集まる必要があるのかと思う。頬杖をついて与えられた行動を忠実にこなしている木偶(でく)の集団を眺めた。 予算も部屋割りも、すでに教員同士が別で話し合い、例年に基づいて決められている。このあつまりはただ、大人になり社会人になったときのために、子供が大人の真似事をして予行演習しているにすぎない。これが木偶といわずしてなんというのか。 「これが2学期の委員会の部屋割りです」 「えーっ何コレ!?応接室使う委員会ある。ずるい!どこよ!」 しかし、今回は珍しく否と唱える声が上がった。部屋割りなど、それこそよっぽどの理由がない限り変更などありえないが、今回はそのありえない変更があったのだ。一空教室からしかも応接室への変更。そもそも応接室は生徒が使う部屋としては不適切に思われる。 しかし、声を上げた女生徒以外(自分以外)はぎょっとして彼女を見る。自分の隣に座っていた男子生徒が見兼ねて囁く。 「風紀委員だぞ!」 「はっ」 何がと言わずとも彼の言いたいことを察し、彼女は己の口元を抑える。そんなことをしても、一度発した言葉は戻らない。 その否の言葉に、ただ一人だけが笑った。 「何か問題でもある?」 簡易の輪から離れた窓際。小さく、しかし深く響く声で齎された討議に、少女は全身を強張らせた。 「いえ!ありません!すっ、すいませんヒバリさん!!」 「じゃ―――続けてよ」 従順な少女の言葉に、ヒバリと呼ばれた少年―――雲雀恭弥は、満足半分、期待外れ半分で先を促した。この集団で唯一、木偶ではない者だ。 「でもおかしくね?応接室を委員会で使うのってのは」 「のっちもそー思う?」 「インボー感じちゃうよ」 しかし、少女に対し何もしなかったのを見てか、緑化委員と名前の置かれた机に座っていた三人組が代わりに否を唱えた。少年の表情から笑顔が消える。 (あーあ。ご愁傷様・・・) まるで、全校生徒の代わりに意見を述べているんだといわんばかりのドヤ顔に念仏を送る。ほんの少しの使命感で再起不能にされては堪らないだろうに。ほんとうに。 (くだらない) しがない図書委員の高橋奈緒は、そう思うのだ。 *** 並盛中学校の政治的権力は他校とかなり異なっている。例えば大きな催しものがあった際には、教師ではなく一部の生徒がその場を仕切るのだ。その一部とは風紀委員に籍を置く者であり、行事だけに留まらず、彼らが学校を統治している。その中でも、現在風紀委員長に在籍する雲雀恭弥は暴力でもって治安を維持しており、逆らうもの、気に入らないものはその粛清にあう。 「まぁそれで?その三人はどうなったの?」 「さあ?咬み殺されたんじゃないの?」 「かみ・・・?」 「アイツの口癖。自分を強い肉食動物にでも例えてるんじゃない?ま、よーするに、ぼっこぼこのぎったぎたにするの」 「ぼっこぼこ・・・」 某ジャイアニストのようだなんて印象を抱いたのは失礼だろうか。 「会ったことないけど、なんだか物騒なのね」 片頬に手を添えて物鬱気な親友に、奈緒は呑気なものだと思う。彼女の心配は弟の綱吉に危害が加わるかないかのどっちかなのだ。例えば、核兵器を持った人間がすぐそばにいたとしても、綱吉と関わらなければやはり「なんだか大変そう」で済ますのだろう。ある意味彼女も木偶とは逸脱した存在だ。 「せっかく同じクラスなのに、一度くらい顔だしてくれたらいいのにね」 「馬っ鹿言わないでよ」 だから、こんなことも言える。 *** (少し時間がおしてるなぁ) 職員室へクラス全員分の宿題を運びながら、揚羽は残りの休み時間を計算しつつ、胸中だけで焦る。階段を降りた所で、一度足を止めて逡巡する。今いる廊下をいつもはまっすぐ行くのだが、そうするとつきあたりを左に2回曲がらなければならない。しかし今左に曲がれば、その廊下の突き当たりに目的地はあるのだ。つまりいつもの道はコの字に遠回りすることになる。 (えーい。近道しちゃお!) 揚羽は躊躇うことなく左に曲がった。 「あれ?」 誰にもあわないと思った先に見知った顔を見つけて揚羽は足を止める。 「ツナ?」 「姉さん?何でここに?」 揚羽の最愛の弟の綱吉だけではなく、となりには山本と獄寺の姿もある。三人とも揚羽がいることに驚いているようだった。それもそのはず。 「それはこっちのセリフよ。この辺は生徒があまりこない場所よ?」 揚羽の言うとおり、四人がいるのは、校長室、教頭室、理事長室、そうそうたる部屋が並ぶ廊下だ。別に通るのを禁止されているわけではないが、並みの生徒には近寄りがたい場所なのである。よって揚羽もいつも遠回りをしているのだ。 「秘密基地?」 「そうなんすよー」 「あほかおめーは!秘密基地じゃねえ!アジトだ!ア・ジ・ト!!」 「どっちでも一緒じゃねーか」 「一緒じゃねーよ!」 「アジト?」 にこにこと笑いながら怒れる獄寺の言葉を受け流している山本の言葉に揚羽は首を傾げて綱吉を見遣る。 「そんなマフィアっぽいことしていいの?」 「オレは嫌なんだけど二人がノリ気で・・・」 (流されたのか・・・) 発言権はあるだろうに、相変わらず気弱な弟に呆れながらも言いたいことを胸中に留めたのは、やはり弟かわいさである。 「姐御もどうですか!」 「ごめんね。わたしやることが・・・いけない!遅れちゃう!!」 彼らとの会話でかなり時間をロスしていたことに気付く、せっかくの近道が無駄になってしまう。 「それじゃまたね!」 「いつも御勤めご苦労様です!」 「それなんか違う!」 「ははは。獄寺っておもしれーのな」 ピシ!と90度に身体を曲げて言う獄寺にツッコミを入れている弟の声を背中に聞きながら揚羽はハハハと乾いた笑みを浮かべた。 「お、あったぞ『応接室』」 「へ〜〜〜こんないい部屋があるとはね―――」 しかし、更に聞こえた会話に揚羽は足を止める。考えるまでもなく、振り返る。彼らが入っていく部屋の名前を見て、目を見張った。自分でも理由が分からないままに駆ける。 ―――『応接室』? 「へーはじめて入るよ応接室なんて」 ―――ぼっこぼこのぎったぎたにするの。 ふと弟の声に被り、親友の声が脳裏に甦る。そうだ。 揚羽は声の限り叫んだ。 「ダメ!戻ってツナ!!」 「まてツナ!!」 「え?」 山本の珍しく焦った声と、聞こえるはずのない姉の声とに、驚いた綱吉は思わず反応が遅れる。 「1匹」 そこで綱吉の意識は途絶えた。 *** 思わず目を覆いたくなるような鈍い音と共に、弟が視界から消えた。 「ツナ!」 『一匹』目のあとを追うように進入してきた『生物』に、彼―――雲雀恭弥は次の矛先を向けた。 「のやろぉ!!ぶっ殺す!!」 しかし、無謀にも自分に向かってくる別の侵入者に阻まれて、已む無くその向きを変える。 彼の武器なのだろう、懐から茶色い筒状のものを取り出す侵入者に、それが爆発物だと気付く。起爆させる暇など与ないままに、雲雀は己の得物、トンファーを叩き付けた。威勢の割に呆気ない。 「2匹」 最初の印象通り、あっという間に動かなくなった侵入者に興が削がれる。彼は自分の思い通りに行かないことが大嫌いだった。しかし思わぬ誤算もあった。曰く『2匹』目が動かなくなった瞬間、彼に心地よい殺気が向けられたのだ。残りの1匹。"最後"に残したのはどうやら正解だったらしい。 「てめぇ・・・!!!」 いつもは出さない左手にもトンファーを構えた。雲雀にとっては賞賛に値することなのだが、残念ながら目の前の彼には到底理解のしようがないことだ。両手を駆使して攻撃するが見事にかわされる。動きがぎこちないので喧嘩慣れをしているわけではないらしい。運動神経だけですべてを避けているのだとしたら、やはり賞賛に値する。と、ほんの数秒の攻防で雲雀はそこまで見切った。 だからこそ残念でならない。 「ケガでもしたのかい?右手をかばってるな」 目の前の生き物が『草食動物』であることが。 「当たり」 言い当てられて、動揺したのか。動きのテンポを崩された相手の急所を蹴り上げるのは簡単だった。もう彼は動かないだろう。なんてつまらない。 「3匹」 淡々と、静かな声が響いた。 *** あっという間の出来事に、綱吉を連れて逃げることもできず、揚羽はただ恐々(きょうきょう)と二人が倒される様を眺めた。彼女が知る限り、二人は最強だった。元からマフィアである獄寺はもちろんのこと、山本だってリボーンに才能を見込まれるほどの運動神経の持ち主だ。その二人が手も足も出せずに、倒されてしまったのだ。揚羽にはどうすることも出来なかった。 ふいに彼が視線だけでこちらを見遣ってきて、揚羽は思わず身体を強張らせながらも、綱吉を背に庇い両手を広げた。 「君は確か・・・2−Bの学級委員長だったね」 だがしかし、言葉など通じないと思っていた相手に話しかけられて、揚羽は思わず面食らう。すぐに彼の言葉を租借して、なんとか続きを繋ぐ。 「柚木揚羽!君のクラスメイトよ」 「僕は好きなときに好きなクラスなんだよ」 「ごめん。意味がわからない」 言葉を交わして説得できるなら、この殲滅者を止めることが出来るかもしれない。という揚羽の儚い希望はものの一瞬で消えた。 言葉の通じなさに、思わず会話を放棄してしまった。通訳を呼んで欲しい。 「君は仕事中のようだね」 「え?」 ふと、雲雀がついと入り口に視線を遣るのでつられてそちらを見ると、入り口から廊下にかけて、大量のノートが散らばっている。先ほど揚羽が投げ捨てたクラスの提出物だ。仕事とは学級委員の仕事のことのようだ。 「学校の仕事にすぐとりかかるなら君は見逃してあげてもいいよ。でもそれは置いていってね」 それ、とは背に隠した綱吉のことらしい。 「嫌よ!」 そんなの答えなんて決まっていた。 「この子を置いていったら、君はこの子に酷いことをするのでしょう?だったら出来ないわ!」 まさか揚羽が拒絶するとは思わなかったらしく、目の前の雲雀が少し目を瞠るのが見えた。 「せっかくチャンスをあげたのに、君は愚かだね」 「ここで逃げたら、わたしは絶対に後悔するから」 恐怖に揺らいではいるが、堅い意志によろわれた瞳。まるで凛と咲く花のようだ。しかし、直向きな美しさほど脆く、愚かなものはないと思う。咲く場所を間違えた花は踏み潰される。雲雀にとっては、手間をかけさせられるただ煩わしいだけのものだ。 「どうしてそこまでするの?彼は君の恋人?」 「弟よ」 「ずいぶんと弟想いのお姉さんだね。逃げたいとは思わないの?」 「逃げたくない」 いかにも、な台詞に雲雀は嘲笑を浮かべた。 「足、震えてるよ?」 本当は、すごく怖い。だけど。 「それでも、この子を見捨てるなんて、できない」 足どころか、腕も頬も身体の全てが震えていたが、それでも彼女は頑なに引こうとはしなかった。 それを見て、雲雀は少しだけ感心したように笑んだ。 「君は心が強いんだね」 「そういう君は弱いね」 「なに?」 揚羽からの意外な糾弾に、雲雀は目くじらをたてた。『弱さ』は雲雀が最も嫌いなものであり、最大の侮辱だ。 しかし彼女も、恐怖に表情を染めながら、雲雀を見つめ返すことは止めなかった。 「だって草食動物、ってつまり自分より弱いものを攻撃するのでしょう?それって弱い人のすることだわ。壊すだけなら3歳の子どもにだってできるもの」 生きる為に必要なことでないのなら、野生の生き物にすら劣る。 そう言い切った揚羽の言葉に雲雀が眉を寄せるのと、背後の気配が動くのはほぼ同時だった。 「あーいつつつ・・・・・・・・・・・・」 「ツナ!目が覚めたのね!」 「!ごっ・・・獄寺君!!山本!!なっなんで!!?」 「起きないよ。2人にはそういう攻撃をしたからね」 「え゙っ」 目が覚めて、一番に倒れている友人を見れば誰もが浮かべるだろう疑問を口にする綱吉に、当の張本人である雲雀恭弥が不親切なほど端的に説明した。 「ゆっくりしていきなよ。救急車は呼んであげるから」 「ちょっ、それって(えーーーーっメチャクチャピンチーーー!!?)」 綱吉の顔が面白いほど驚愕の色に染まる。 「ツナ、わたしが隙をつくるから、なんとか逃げて」 「でも、それじゃあ姉さんが」 小さく囁くように言った姉の言葉に、綱吉は目を剥く。 目を覚ましたとき、姉は自分に背を向けていた。つまりずっと自分を庇って盾になってくれていたのだ。 「!」 どうすればいいのかうろたえるばかりの綱吉の視界に、黒い影が過ぎる。見れば窓の外から銃でこちらを狙うヒットマンがいた。 「死ね」 聞こえはしなかったが、彼の唇がそう動いたのが見えた。 容赦なく火を吹いた銃口はやはり綱吉の額に向けられていた。薄れ行く意識に死を感じながら、綱吉は姉に守られるばかりの自分を恥じた。 (死ぬ気弾!?) 何度見ても慣れないが、急に脳天を貫かれた弟に、揚羽は思わず家庭教師を探すが、彼はすでに姿を消していた。 「うおぉおぉっ死ぬ気でおまえを倒す!!!!」 「何それ?ギャグ?」 突然半裸になり人格が変貌した綱吉に、雲雀は思わず笑った。先ほどまでは飛び掛ってくるような人間には見えなかった。だからこそ、意識が戻るように攻撃した。怯えるだけの小動物を甚振って遊ぶつもりだったのだ。 しかし、己を省みない死ぬ気の攻撃も雲雀には通じなかった。余裕すら見せて、雲雀は綱吉の攻撃をかわし、そのまま顎を鉄の棒で殴り上げた。 「ツナ!」 倒れる弟にすかさず駆け寄る姉の姿に、そういえばいたのかと彼女の存在をやっと思い出す。 「アゴ割れちゃったかな。さーて、あとの2人も救急車にのせてもらえるくらいグチャグチャにしなくちゃね。君たちはちょっとおもしろかったから、その後で丁寧にいたぶってあげる」 興味を失ったのか一瞥も寄越さないで言われた台詞を揚羽は聞いてなかった。倒れた綱吉を起こそうとし、その腕を力強く掴まれたので驚く。 「ん?」 「まだまだぁ!!!」 常人では彼の思うままだったろう。しかし、死ぬ気になった人間の丈夫さは無機物にだって劣らない。 彼が思うほどのダメージではなかった綱吉がその隙をついて殴りかかる。 「タワケが!!!」 また顔を殴られて驚いた彼の隙を更について、リボーンの相棒レオンがどこからか飛び込んできた。まるで心を読んだようにスリッパへと変形したレオンをしっかりと捕まえ、綱吉は形のよい雲雀の頭を殴りつけた。小気味良い音がする。叩かれた衝撃で少し雲雀がふらついた。 だがしかし、それは攻撃力を備えたものではない。死ぬ気とは、つまり後先を考えない状態であり、綱吉の後悔はあくまでも大切な人を傷つけられているにも関わらず、雲雀に対する己の気弱さにあった。だから、雲雀と喧嘩をし、勝ちたいという欲求はほとんどなかったのだ。 (でも、よりによってスリッパって・・・!) しかも、『W.C』とある。これほどまで人の神経を逆撫でするものはないだろう。 「ねえ・・・」 案の定。ふらつきが治まった雲雀から突き刺さるような殺気が立ち上るのを感じた。 「殺していい?」 純粋な殺意に、揚羽の両目に思わず涙が浮かんだ。 「そこまでだ」 しかし、膨らんだ殺意を制する声が響いた。窓の外からボルサリーノを被った赤ん坊がこちらを悠々と眺めている。 「リボーンちゃ・・・」 「巻き込んで悪かったな揚羽」 「ふ・・・」 その姿を見留めた瞬間、揚羽は安堵からとうとう涙を溢した。ぼろり、と零れた涙に目を伏せれば、それは次から次へと溢れでた。 「やっぱつえーなおまえ」 「君が何者かは知らないけど。僕、今イラついてるんだ。横になってまっててくれる」 感心したように言う赤ん坊は明らかに年相応ではない。だが、雲雀には彼が何者であろうと関係無かった。また自分を煩わせる存在が増えた。ただそれだけのこと。 しかし、黙らせようと振り上げたトンファーを彼がどこからか取り出した十手でいとも容易く受け止めた。 しかも、雲雀が力を込めて押してもびくともしない。 「ワオ。すばらしいね君」 彼の辣腕さに雲雀が感嘆の言葉を口にするが、赤ん坊は賛辞もどこ吹く風というように淡々と告げた。 「おひらきだぞ」 終劇を告げる彼の手に握られたものに雲雀は咄嗟に身を引いた。とたん、辺りに白い閃光が走る。 揚羽の視界も白く染まり、意識が、遠退いたーーー。 *** 「なぁ、あいつにわざと会わせたぁ!!?」 「キケンな賭けだったけどな。打撲とスリ傷ですんだのはラッキーだったぞ」 「はぁっ何だよそれ?」 「お前達が平和ボケしないためのトレーニングだぞ。鍛えるには実践が一番だからな」 「なっ、何いってんだよー!!」 「ちくしょーあんなやつに・・・!」 どうやらアジトを作るというくだりから、雲雀恭弥と引き合わせるための布石だったらしい。冗談ではないと思う。たったそれだけのことで、獄寺も山本も怪我をした。そしてーーー。 「姉さんまで巻き込んで・・・」 「・・・・・・・・・」 綱吉はまだ気を失ったままの揚羽を一瞥する。その言葉に、不遜すぎる態度の赤ん坊が初めて口をつぐんだ。 姉の頬に残る痕に、この中では唯一暴力さえ受けてはいないものの、一番酷い目に遭わせてしまったような錯覚に陥る。そもそも姉が涙を流すこと自体綱吉の記憶にはない。遠い過去にはあったかもしれないが少なくともいつだったかはすぐにはでてこない。それくらい綱吉には姉の涙は衝撃であり、罪悪感を掻き立てるものだった。 そして何より。 「つーかどうしてくれんだよ!ぜってーあの人に目ぇつけられたよ!!」 「まーまー」 「次はぶっとばします!」 姉の心配をしていたかと思えば、やっぱり己の身を案じる綱吉と、また対峙する気満々なその部下候補達。全く真逆な反応をする教え子達の声を背後に聞きながらリボーンは不敵な笑みを浮かべた。 途中、揚羽が参入するという予想外の展開になったが、概ねリボーンの思惑通り。 「ヒバリは将来必ず役に立つ男だぞ」 結果オーライだ。 *** 久々に面白いものを見つけた。荒れてしまった応接室を部下に片付けさせている間、比較的被害が少ない窓辺で雲雀は思いを馳せる。どうすればまた彼に合見えるだろうか。 「委員長!」 「ん?」 「これは如何しましょうか?」 不意に思考を断ち切られ、視線をやれば強面の男が数冊のノートを見せてきた。誰が落としたものかはわかりきっている。 「あぁそれね。職員室にでも届けてあげたら」 「はっ!」 ふと、窓から流れてきた風に頬を擽られ、雲雀は誘われるように外を見上げた。白い雲の浮かぶ空は眩しいほど青い。その深い色に、ふと小さな漆黒が脳裏を霞めた。恐怖に揺らぎながらもけして輝きを失わないそれは。しかし、さらに強烈な黒によってすぐに塗り潰された。 「あの赤ん坊、また会いたいな」 彼の興味は圧倒的な強さにこそあった。 何物にも染まらぬ色 (深淵は波立たず) 2巻しゅーりょー! やっと出せました〜! これからはどんどん出張りますよ♪ [*前へ][次へ#] [戻る] |