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入江正一


「またソーメン!?」


 朝から綱吉の悲鳴が木霊した。


「最近お中元の残り物ばっかりじゃん!」


 食卓にだされた器の中身を見て、綱吉は辟易と言う。ちなみに昨日の晩御飯も素麺であり、その前の晩も同じものだった。違うのは素麺を送ってくれた御宅ぐらいだ。


「も・・・文句言わないの!いいじゃない経済的で」


 綱吉の指摘にぎくりとしたのは奈々だ。素麺は調理法も単純で、洗い物が少なくてすむので、とてもありがたい主婦の味方だった。なによりもせっかくいただいた物、とくに食べ物を捨ててしまうのはしのびなかったのだ。なんとか傷む前に平らげたい。


「オレはママンのつくったソーメン好きだぞ」
「私も好きよ」
「わたしも」
「まあ、ありがとう。さすがリボーンちゃん、ビアンキちゃん、揚羽ちゃん!」


 しかし、綱吉以外の食卓についた子供たちは顔色ひとつ変えずに素麺を口にしていた。どうやらノーモアソーメンを唱えているのは自分一人だけらしい。疎外感を感じた綱吉は「ちぇ」とくさる。



 それは何気ない日常だった。少なくとも彼らにとっては。









‡標的13‡ 入江正一









「・・・・・・」


 自分が通る道に、人が倒れていたらどうしますか?


 一、介抱してあげる。二、人を呼ぶ。三、無視する。


 泡を噴きながら仰向けに倒れている様を見て、どれもなんだかなぁ、と思いながら、揚羽はとりあえず気絶している少年に声をかける。


「もし。大丈夫ですか?意識はありますか?」


 意識確認のため、耳元で声をかける。意識はあるが声が出ない場合のために、手を軽く握ったり、指の爪を強めに押したりした。


「はっ!?」


 すると、浅い意識障害だったのか、少年が弾かれるように飛び起きた。


「あ。起きた」
「あれ?ボク・・・どうして」


 少年がふと自分の握られている手を見て、こちらを向き、視線が合わさる。そこでようやく揚羽の存在に気付いたらしく、「ひぃ!」と悲鳴を上げると、少年は揚羽の手を振り払った。・・・ちょっと傷付いた。


「大丈夫?どこか痛いところとかはない?」
「あ、あれ?頭を撃たれて裸になってた人は?」
(うわー・・・)


 彼がなぜ道の往来で倒れていたのか、その理由を正しく読み取り、揚羽はいきなり居た堪れなくなる。


「ゆ、夢でもみてたの?」
「夢・・・夢だったのか・・・・・・?」


 このまま忘れてもらえるならそうしようと思ったが、彼の身に起こったことは、そんな浅いものではなかった。


「・・・つっ!」
「ほほ、けがしてるの?」


 痛むのか顔を歪め、頬を押さえる少年は、すでに固まっている己の血を見て、青褪める。というかよく見れば眼鏡も片方のレンズが割れてしまっている。


「やっぱり夢じゃない・・・!」
(あちゃー)


 どうやらかなり巻き込まれてしまったらしい。「信じてください!」と鬼気迫る勢いで捲くし立てる少年に、揚羽は神妙に頷いてあげる。そうしないと少年の心が今にも崩壊しそうだったのだ。


「そう、とても辛い目にあったのね・・・(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいわたしが悪いわけじゃないけどごめんなさい)」
「!信じて・・・くれるんですか・・・?」
「ええ、もちろん!」


 身体を震わせ、涙ながらに話された内容は、とても心当たりのある出来事ばかりだった。自分はもう慣れてしまって、なんとも思わなくなってしまったが、なるほど、何も知らない人物からみればこのような恐ろしい事態だったのか、と改めて認識する。
 揚羽が内心謝り倒しながら、全力で味方だと肯定すると、少年―――入江正一は、感動して、初めての笑顔を見せた。






日常に潜む日常
(それは、開けてはいけない疫の箱)
















元ネタは箱ではなくて壺らしいです。


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