愚かな魂に白い花束を(13シャマル生誕)日記ログ
「彼女は愚かだったわ」
珍しく、彼女が他人を罵った。
「ずっとずっと、この小さな白い家を守ってさえいれば、きっと今頃でも生きていられたでしょうに」
埃で薄汚れた壁を払うように撫で、怒りを圧し殺すようにそこへ額を寄せた。しかし目を伏せたその表情からは愛しさしか感じられない。
「でもね彼女が死んだと聞かされて初めてここを訪れたとき、彼女を許してしまったの」
「何故?」
理由なんてわかりきってはいたが、女性には甘いと自負する自分は丁寧に聞き返した。
やはり彼女は哀しみの残る瞳をそれでも輝かせた。
「郵便受けにいっぱいの手紙と花束が届いていたの」
むせかえるほどの花の匂いと便箋から溢れそうな感謝の言葉の数々。彼女が好きだった白い花が主の不在を嘆くように散っていて、白い花弁が舞う中白い便箋を胸に抱き締め、たくさんの白に囲まれて泣きたくなった。
「何が愚かで何が間違っているのか。そんなことこの世界の誰にも決められないんです」
先生が助けた全ての命からすれば彼女のしたことはきっと崇高で尊いことなんですね。
彼女は世界の理不尽さを嘆くように言った。
「だけど私は彼女を愚かといいます」
だって私は彼女にもう一度会いたかった。彼女が生きていれば救えたかもしれない命からしても彼女の行為はきっと愚かに映るでしょう。と。
愚かな魂に白い花束を
(貴女がいれば救済など必要なかった。)
掲載日(13/02/09)
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