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あくはのべよ

「坊っちゃん!明日お仕事お休みだったわよね?」
「そうだが、なんだ?」
「明日ダリルシェイドにお芝居小屋が来るんだって!一緒に行こうよー」
「別に構わない」
「やったー♪」
「リオン様。ヒューゴ様がお呼びです」

 ふってわいた召し使いの言葉に、リオンは血の気が下がった。ヒューゴからの突然の呼び出しは珍しいことではない。しかし、その内容は大抵が仕事の話なのだ。客員剣士という職業柄、急な仕事はいつものことなので構わないのだが、後ろの気配が気になる。恐ろしいくらいに静かなのが余計に怖い。

「わかった。すぐ行く」

 短く返事をしてヒューゴの元へと歩き出せば、後ろから無言で着いてくる気配。

「何故ついてくる?」
「主人のあとをつけるのは召し使いとして当然じゃなーい?」
「そうか」

 ちなみにここで主人として「ついてくるな」と命令しても、「なんであたしが坊っちゃんに行動を制限されなきゃならないの?」という先程と意見が180度コペルニクス回転した返答とともに彼女の機嫌が降下するだけなので何も言わない。

「失礼しますヒューゴ様」
「おぉ来たか!リオ・・・ン」

 「リオ・・・」でとまったのは仕事机に向かっていたヒューゴが振り返り、目当てのリオンの背後で笑顔を浮かべているメイドを見付けたからだ。
 ただでさえ心臓に悪い存在な上に、笑顔付きだ。一時停止するのも理解できる。

「まあ、掛けなさい」

 そして、無視を決め込むことにしたらしい。その理由は先ほどのリオンと同じで、何故いるのかを問えば、極上の笑顔で「なんであたしの行動をあんたに教えなきゃなんないの?」という見も蓋もないパワーワードをいただくことになるからだ。
 賢明な判断といえよう。
 リオンは手近な椅子に腰掛ける。ジゼルは従順なメイド宜しく、少し後ろで立っている。うん、とても怖い。

「さっそくだが、明日、軍の遠征がある。お前に同行するよう依頼がきた・・・ヒイィ!

 嗚呼、なんて、なんて間の悪い男なのだろうといつも思う。
 せめて、明後日なら、という希望が潰えた。同時に彼の悲鳴に、背後にいる女の表情が変わったのだと悟る。これから恐らく辛い目に会うのだろう、彼の運命を想像してリオンは哀れみを禁じえなかった。
 彼は仕事熱心なだけなのだ。それについてはリオンも一目を置いている。たった一代で会社を起こし、世界一に上り詰めたのだからそれは並大抵のことではない。何より、あんなに普段後ろの彼女にいびられているのに、スタンスをまったく変えないのが、もはや素晴らしいとすら関心する。
 つまり、何が言いたいかというと、彼に悪気はないのだ。それが余計に不憫に思う。

「ヒューゴさまぁ〜」

 来た。

「それ以上喋ると、ケツの下にしかけた地雷を起動しますよっていうかもうしちゃいました★

 きっと何かするんだろうなと思っていたが予想の3倍くらい酷い。

「お、おま、お前ぇえええええ!」
「大丈夫ですよぉ〜ケツを椅子から上げなければ爆発しませんから〜。あ、これじゃあ口を動かすのは止められないですね?どうぞー続けてお話ししてくださいよ」
「おま、おまえ・・・!ほんとに、もう!・・・もう!

 なんか言葉にならなくなってしまったらしい。気持ちはわかる。
 片や仕事の強要。片やケツに爆弾。前者のほうが百倍マシだ。もしかして、屋敷中すべての椅子に仕掛けているのだろうか。リオンは自分の太ももがじっとりと汗ばむのを感じた。
 ヒューゴが救いを求める目でこちらを見てくるので、ため息をついた。まったくいい大人が仕方ない。

「ジゼル、女の子がケツとか言うな」
「はーい」
「そこじゃないよね?!」

 あぁ、間違えた。

「ジゼル、やめろ」
「はーい」

 リオンの命令だけは返事がいい。
 ジゼルが起爆装置を解除したのを見届けてから、改めてヒューゴに向き直る。

「ヒューゴ様、その仕事慎んでお受けいたします」
「いや、そんなに気が進まないなら、私から断っておく」
「いや、あの、僕は嫌だなどとは言ってないですよ。念のためにいっておきますが、ジゼルの行動は僕がさせているわけではないですよ」

 駄々を捏ねる子供にするような態度は止めていただきたいと思う。

「あぁすまない。あの子が絡むと頭が混乱してしまって」

 それは無理もない。

「言い方が悪かった。お前のせいではないのだが、あの子の機嫌が悪いと私の命にかかわるのだ」

 だから傍にいてくれ。と、両手を握られながらおっさんに言われるのはしょっぱい気持ちになると思ったが、意外にも、少し、嬉しい、と思う自分もいた。






あくはべよ
(なかよし親子計画!)






リアル仕事と私どっちが大事なのよ!ヒューゴ様バージョン。
仮タイトル『突然の仕事』

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あきゅろす。
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