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父親が自分とあまりかわらない歳の若い女と再婚したら軽くDVの引き金になりそうだよね!


「ジゼルちゃん、アレなんだけど・・・」
「どぉれどれ〜?」

 少しだけ開けた扉の隙間から目だけを覘かせて、ジゼルがマリアンに言われたものを見る。
 ジゼルの視線の先にはこの家の当主であり、彼女達の主人であるヒューゴが何やら深刻そうな顔をして椅子に座っていた。

「はぁ〜・・・・・・」

 しばらく黙っていたかと思うと、急に両手で頭を抱え手櫛で髪を書き上げながら長いため息をつく、という行為をヒューゴが何度も繰り返す様を、ジゼルは少しの間じっと観察した。
 しかしすぐに満足したのか納得したように張り付いていたドアから顔を離し、う〜ん、と唸りながら腕を組む。後ろからずっと傍にいたマリアンが悩ましげな表情で、唸るジゼルの顔を覗き込んだ。

「ね?言ったとおりでしょう?」
「うん、確かに・・・」





【父親が自分とあまりかわらない歳の若い女と再婚したら軽くDVの引き金になりそうだよね!】




「ヒューゴ様の様子がおかしい?」
「そうなの・・・今朝からため息ばかりなさっていて、何かあったのかしら?」

 物鬱気に頬へ手を添えて心配するマリアンに、リオンは興味がなさそうに紅茶に口を付ける。
 くだらない。ヒューゴが可笑しいなどいつものことだろうに

「そうね・・・きっと、あれは恋煩いだわ!」
「ブハッ」
「ちょっと、汚いわね坊ちゃん」

 しかし、ジゼルの想像もつかなかった意外な言葉に、リオンは口に含んでいた紅茶を盛大にぶちまけた。正面に座っていたジゼルはそれを予想していたのか、ちゃっかり持っていたトレイで防いでいる。

「すまない・・・って、え?今、なんて言ったんだ?今なんて言ったんだ??

 大事なことなので2回言いました。

 汚れた口の回りをハンカチで拭きつつ上流階級の人間として有るまじき行為に素直に謝りながら、リオンはジゼルの発言に戸惑いを隠せなかった。

 恋煩い?確かに今そう発音したように聞こえる。
 現在、公式では他人となっているヒューゴとリオンだが、事実上二人は親子であり血が繋がっているわけなので、今の言葉はどうにも聞き捨てならない。
 ヒューゴは息子の自分から見ても彼の亡き妻、リオンの実の母親であるクリスを愛しており、家に入って一番に目に付く玄関ホールには、彼女への愛を比例しているのだと象徴するかのように無駄に馬鹿でかい肖像画(ヒューゴ作)が飾られているくらいだ。
 以前一度だけジゼルが、「ウザいから」という味も素っ気もない理由で彼の愛の結晶を火葬にかけようとしたことがあったのだが、足にかじりついたヒューゴの涙ながらの説得という名の嘆願に、さすがの彼女も屋内キャンプを断念した。つーか、かなり引いていた。もちろんリオンも引いた。
 自分の半分以下も生きていない少女に追い縋りかじりつく中年。かなり異様な光景だったことを今も鮮明に思い出せる。叶うなら、綺麗さっぱり忘れさってしまいたい彼の中で五指に入るほどの忌々しい記憶だ。

 そんなヒューゴがはたしてクリス以外の女性を愛することができるのだろうか。
 リオンの心情はいろいろと複雑だった。



「よし!そうと決まれば相手を探すわよ!さいわい今日はヒューゴ様も休みでプライベート中だし、意中の人へ接触するかもしれないわ」
「なんだその無駄に冴えわたった推理は」

 リオンのつっこみも虚しく、結局はジゼルに引きずり回されるはめになってしまった。







*****






「ターゲットは只今息抜きのため散歩中の模様です隊長」
「ほぅ、僕が隊長なのか。言いだしっぺのお前でなく、僕が責任者なのか」

 道の端に備え付けられているベンチに腰掛けて街を眺めているヒューゴを発見し、少し離れた建物からこっそりとその様を覗く。
 普通、建物の影から顔だけを出している怪しいことこの上ない人間がいれば周りの人間は訝しがるはずだが、何故か通り過ぎていく人々は皆、生暖かい視線を寄越すだけで特に不審がる者はいない。むしろ「あらあら、また何かしているわ」という微笑ましそうな声が聞こえる。お前いつもこんなことしてたのか。
 おつかいなど一度も引き受けたことないくせに、毎日のように出かける彼女の謎が今ひとつだけ解けた。正直、知りたくなかった。

「やぁねえ、主を差し置いてあたしが最高職なんてそんな恐れ多い。ご主人様をたてただけじゃない」
「嘘だな」

 きっとターゲtt・・・ヒューゴに見つかった場合の責任逃れとして、全てを『隊長』に押し付けるつもりだったのだろう。ただのごっこ遊びのような会話にでさえも、相手が彼女では気が抜けない。小さく聞こえた舌打ちがそれを証明している。

「じゃああたしが隊長でいいから、さっさと任務を遂行するわよ司令塔」
「さっきより官職が高くなっているのは気のせいか?」

 しぶしぶと『隊長』に甘んじた彼女だったが、やはり自分の地位のほうが高くなっている。
 しかし、リオンの当然至極真っ当な意見はジゼルの発言により掻き消された。

「あ!見てっあれよ!きっと相手はあの人だわ!!さっきからなんかずっと見つめてるし」

 ジゼルが指したほうに目を向ければ、ヒューゴは歩くのに疲れたのかベンチに座っていた。ボーっと街を眺めているだけように見えるが、ジゼルのいうとおり、その視線はある一点に注がれていた。
 その目線の先には一人の女性がいた。
 ヒューゴとは道を挟んで反対側の少し斜め前に位置するベンチに座っており、黒くて癖のない艶やかな髪を風に揺らしながら、優雅に本を読んでいる。その上品で清楚な雰囲気は肖像画の中で微笑んでいる母に似ていなくもなかった。
 もしかしたらあれが義母親になるのかもしれないのか。と思うと、やっぱり複雑だった。悪くはない、と思う自分もいれば、どこか喪失感を感じる自分もいる。
 気が早すぎることをリオンが考え込んでいる隙に、トラブル発生マシーンがすでに動いていた。

「そこのおねーさん!」

 あの猪突猛進娘が!
 リオンはまず一番に見つかってはいけないヒューゴの姿を探してみるが、流石にそこまで考え無しではなかったか。ヒューゴは既に屋敷へと帰ったのだろう、去った後だった。姿はない。

「え?私、ですか?」
「そう、ちょっとお時間よろしいですか?」
「はぁ」
「玉の輿に興味はありませんか?」
「アホー!」

 リオンのピコハンが炸裂する。

「すまない。こいつは頭がおかしいんだ、気にしないでくれ」
「は、はぁ・・・?」
「ちょっと!あたしの人間性が疑われるようなことを勝手に言い触らさないでくれる!?」

 手元でぶら下がりながら喚いているものは想定無視だ。
 そもそも、この状況でさえ街の住民からは生暖かい視線しか来ない辺り、その点ではもう手遅れだ。

「せっかくあたしが朴念仁で女に全くと言っていいほど縁の無い晩熟なヒューゴ様のために一肌脱いでやろうと思ったのにー」

 一言どころか三言ぐらい余計な言葉が多い。







***






「はぁ」
「どうなさったんですかなヒューゴ様。ため息など吐きなさって」

 ヒューゴの執務室にて、紅茶の替えを持ってきた執事は主のアンニュイな表情に首を傾げた。

「あぁレンブラント爺か。世の中はまったく世知辛いものだとしみじみ思っただけだ」

 ヒューゴの言葉にレンブラントは重たい眉を上げた。今や、この主はオベロン社の総帥として、世界一の大富豪と呼ばれても過言ではない。多少のことも、金にあかせば融通がきくだろう。汚い言い方だが、それくらい、彼はそんじょそこらの王などよりもよほど大きな力を持っている。

「ほぉ。と、いうと?」

 そんな彼にそこまで言わしめる事柄に、レンブラントは少しの好奇心を燃やした。

「寝癖がどうしても直らんのだ」
「は?」

 が、すぐに鎮火した。

 そう言ってまた溜め息をついたヒューゴの頬で、一房の黒髪が空を仰いで跳ねていた。







(知らぬが仏)







めずらしくヒューゴが不幸じゃないよ!と思ったら、やっぱり不幸な一面がありました。・・・何故だ!?
話的には、まぁいつも酷い目にあってんだからたまにはヒューゴがみんなを振り回してみよう!な感じを書きたかったんですが、ただのドタバタだなコレ。しかもヒューゴは最後まで気付いてないという。当事者なのに。
ちなみにヒューゴが女の人を見つめていたのはストレートの髪を羨ましく見つめていただけです。
冥子はもちろん本気で恋煩いだとは思っていません。そうだったら面白いなーな感覚で言っただけです。(邪魔とか)(邪魔とか)(邪魔とか)
冥土シリ−ズの坊ちゃんは自称つっこみだし、周りから見てもつっこみだとは思うけど本質は天然だったりします。冥子はすぐ悪ノリしますが、坊ちゃんは本気でノリます。なので一番まともそうに見えて実は一番ズレているという。


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あきゅろす。
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