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誰が為に鐘は鳴る(3/5)




 セインガルト城とヒューゴ邸は目と鼻の先にある。数分もしないうちに、彼は自宅にたどり着いた。

(やはり、誰も起きていないか)

 しかし、すでに時刻は夜半を過ぎている。屋敷は明かりがついているはずもなく、人の気配も皆無で静寂があたりを支配している。

(今さら、だな・・・)

 やはり、会場へと戻るか、と考えつつも、せっかくのルウェインの厚意を無碍にするわけにもいかず、とりあえず帰宅することにした。
 寝ている住人を起こさないように、慎重に玄関の扉を開けた。

 そのとき、






 パーン パーン



「!?」

 砲撃にも似た音と共に、一気に視界が明るくなる。

「坊っちゃんお帰りなさーい!」

 そこには、今は寝てるはずのジゼルだけでなく、マリアンやレンブラント、また、本来ならばとっくに各々の自宅に帰って屋敷にはいないはずのメイドたちが列をつくって雁首を揃えていた。

「な・・・!」

 本来ならばありえないはずの光景にたじろぐリオンを見て、紺色の制服たちがハイタッチをして喜ぶ。

「キャー!やったー!坊ちゃんびっくりしてるー!!」
「やりましたねっ」
「大成功だわ!」

 甲高い黄色い声に、はっとリオンは我に返る。

「ジゼル・・・どういうことだ?」

 ふふん、と、中心でふんぞり返っているおそらく首謀者だろうジゼルに聞けば、彼女はにんまりと楽しそうに笑う。

「あのね。みんなで坊っちゃんが帰ってくるのまってたの」

 飾りつけとか、お料理とか、準備大変だったんだからねー。と言われて改めて屋敷を見渡せば、ただでさえ広い玄関ホールは、朝にはなかったはずの色とりどりの装飾がなされていて、屋敷の奥からは食欲をそそる匂いが漂ってきている。

「ほら、坊っちゃん。お仕事で疲れてお腹すいてるでしょ?ケーキとかもあるから、みんなで食べよう?あと、肩揉んであげる!」

 そう言って腕を引かれる。そう言われるとそれまでなんとも思っていなかった胃袋が急劇に空腹を訴える。
 やはり装飾で彩られているリビングに入れば、作りたててであるとわかる様々な料理の数々と、リオンの反応を嬉しそうな表情で見守っている使用人たちがいた。

「このケーキは、おまえが作ったのか?」
「へへー!その通りー!!」

 炊事、洗濯、掃除。あらゆる家事という家事ができないジゼルだが、お菓子作りは唯一の得意分野だった。

「家中飾り付けをしたのか?というか、何だこの大所帯は」
「ホントはあたしとマリアンとレンブラントさんで計画してたんだけどー、ほら夜中だし?でも、最初は昼間だけ手伝ってもらう予定だったのが、飾りつけとか料理作ってもらってる内に、どんどん参加者が募っちゃってー」

 参加したい人はご自由にーって言ったらほぼというか全員が残ってくれました。
 と、あっけらかんと言うジゼルに、リオンは複雑な表情を浮かべる。

「この中には自分たちの家族がいるものもいるだろう」
「あ、それは大丈夫ですよ」

 そのリオンの言葉に、一人のメイドが答えた。

「私たち、自分たちの家族のパーティーを終わらせてから来ましたから」

 そう言って満面の笑みを浮かべるメイドたちに、リオンは呆れを通り越して愉快になった。

「夜中ならではの利点よねー」
「ははっ、物好きだな、おまえたち」
「おお!坊ちゃんが笑った。めっずらしー!」


 何だか笑うしかなかった。


「ほら、坊っちゃん。宴はまだまだこれからよ?」

 リオンは、すーっと仕事の疲れが引いていくのを感じた。身体が軽く、気分が高揚していく。
 どうやら、今宵の聖夜はまだまだ終わりそうにないようだ。






 がために


(君の笑顔が何よりものプレゼント!)









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