04
出会ってからこんなに離れたことはないというほど一緒にいなかったおうさまがやっと目の前にいるというのに、視界がゆらゆらとかすむ。
やだ。なんで。
おうさまが、ぼくのそばにきても、震えて頬に落ちた涙は止まらなかった。
「え、おまえどうしたんだ? ……て、おい待てよ!」
おうさまそのこにさわってほしくない。
口に出していないのに、ぼくをぎゅっと抱きしめてそのままだっこしたおうさまは、ぼくのこころを読んだのかな。あやすように背中をさする手に、安堵が広がる。
さみしい。
「ここで待っていろ。迎えをよこす」
微弱な揺れが、おうさまがどこかへ向かって歩き出していることを証明している。
頭がついていかない。
どうして、おうさまはあのこと一緒に帰ってきたの。
人間の世界にいたころにぼくのこころを捕えて放さなかったあのこが、今おうさまのそばにいた。それで、どうしたのだろう。ぐるぐると、頭の中で考える。
「エル」
「……っ、う……ぅ」
おうさまがだっこしてくれているのに、さみしいのはどうしてだろう。
気づいたら、さっきのぬくもりが残る、かぎなれたおうさまの匂いのするベッドにとすんと落とされていた。それでも今は、一時も離れたくないと、おうさまの腕にしがみつく。
ベッド脇に腰掛けたおうさまが、すきにしろと言わんばかりにぼくの頭を撫でる。ぼくは、ぎゅうぎゅうとしがみついたまま。
「悪かった」
「んう……っ」
「知らないのがいて、びっくりしたか」
ぶんぶんと首を振る。
それが、あの子を知っているという意味でした行為だったが、おうさまは何か違う意味にとったらしく、ぼくの体をぎゅうっとする。
久しぶりの、おうさまとぴったりとくっつく時間。
「あれは、人間領にいたものなんだが、わけがあって一時的にこちらで預かっている。……すぐ出ていくだろう」
「……す、ぐ?」
「ああ。どうかしたか」
「ん……」
ぼく、さいていだ。太陽の少年が、あのこが、おうさまのそばにいることが不安でしかたないなんて。おうさまにさわらないでなんて。
おうさまはぼくのものじゃないのに。ぼくがおうさまのものっていうだけであって、おうさまはだれのものでもないのに。
あのこを見たとき、猫だったときに感じた、漠然としたあこがれは、まるでシャボン玉が弾けるみたいに霧散した。代わりに、こころがペシャンコにつぶれてしまう音がした。
「ぼく、わるいこ……」
「帰ってきたら、悪い子でいいと言っただろう」
くしゃくしゃになったぼくの涙で濡れた顔を拭いたおうさまが、やわらかく目を細める。それはいつものおうさまだ。
「……わるいこで、いいの?」
「ああ」
「おうさま。いっぱい、ぎゅってして」
「している」
「もっと」
わがまま、と、すこしもいやがる素振りのない砂糖みたいなやさしい声が、耳をかすめる。ずっとそばにいなかった体温にしがみつくようにして、どこか甘い匂いを吸い込んだ。
こわい。おうさま。
さみしい、が、止まらない。
――魔王様はこんなところにひとりで住んでるの? 寂しくないの?
おうさまのすぐとなりの、あのこ。
ちりちりと頭の片隅を焦がす、明るい声が、おうさまの熱にとけて消えない。
――12 end――
書けているのはここまでです。
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