02
「気になるか」
こくんと頷いた。すこしだけ。
「この城の使用人だ。たぶん人間の世界では、妖精や精霊とよばれるものの類と見ていい」
だんまりとするぼくを見て、おうさまは「分からないならいい」と言って、歩調を早めた。
(ようせいの、ブラウニーと、ロビン)
非日常になったみたいに、不思議なことばかり、起こっている。
(おうさま。おふろってなに)
意志疎通が出来るわけもなく、おうさまは何も言わない。大きな扉を開き、ぼくを下ろした。きょろきょろと辺りを見回す。
(おふろかな……)
みたところ変わった様子はない。置かれたたくさんの白いタオルと、いくつかのかご、ここにも高そうな骨董品はおいてある。あと、入ってきた扉とは別の扉。扉の向こうはなんだかもやもやとしている。
「風呂に入れ」
ふろにはいる。ふろってどこだろう。ぼくはとりあえず言われたとおりにしようと辺りを見回して、ふろとおぼしきものを探す。
「おまえ……」
と、と、と、と慣れない二足歩行で、かごが置いてある方へ向かう。入るということは、中に……。木でつくられたのか、きれいな籠を一個取り出して見つめる。
(これが、おふろかな)
見たところ他に入れそうなものはない。ここに入って何をするのだろう。そう思いながら囚人服の裾を上げて、籠を跨ごうとしたところで――。
「なにをしてるんだ、おまえは」
首根っこを掴まれて、阻止された。
(おふろじゃなかった?)
という目でおうさまを見る。首を傾げるぼくに、おうさまがはあ、と重いため息をついた。ぴくりと、耳が動く。もしかして、ぼくなにか悪いことしたのかな。
そう思っていると、おうさまがなにかを呟いてから、ぼくが出しっぱなしにした籠を持ってくる。
「とりあえず、服を脱ぐんだ。風呂入れてやるから、覚えろ」
服脱ぐの?
「脱いだ服を入れるところだ、これは」
服を脱いでおふろ入るの? よく分からない。
難しい顔をしているだろうぼくを見たおうさまが、無理矢理前の合わせを剥いでぽい、と裸にされる。そのまま、さっきあったもうひとつの扉を開けた。
カラカラ、という、響くような音が聞こえた。とたんにぼくの体に掛かる温かい霧のようなもやもや。白くて視界が、悪い。相変わらず服を着たままのおうさまがぼくの体を掴んでひたひたと歩く。下には水があって、踏むことを躊躇ってしまう。
だってぼくにとって、水は公園の蛇口から出るものと雨だけだ。こんなに貴重なものが、まかれているなんて。やっぱり、お金持ちなんだなあ。
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