02
いつもきつく言われているはずなのにすぐにどこかへ放ってしまうぼくの靴は、おうさまの部屋に置かれていた。ここで脱いで放っておいたはずないのに、だれかが探しておいてくれたんだ、きっと。
言われた通りに靴を履いてまっていると、やってきたおうさまがぽすんとなにかをぼくにかぶせた。大きい布で体を覆われて、頭には耳がかくれるぼうし。すかーとみたい。
「おうさま、これなに?」
「まだ春が来て日が浅い。風は冷たいから、一応外套を着ろ」
「がいと……?」
そう言ったおうさまは、ぼくと同じようなものなのにずっとずっと大きな外套をくるんと纏った。おうさまには、ぼうしがない。ぼくだけ。
「おうさま、ぼうしいらないの?」
「ああ。おまえの耳は目立つから、気休め程度にな」
「ふうん」
ぐいぐい、と自分の耳をさわってみる。このぼうしで隠れているとは思えないけれど、おうさまが部屋のドアを開けて出るように言っていたので、廊下へと歩き出した。
「そばを離れるな」
そういっておうさまは、ぼくの頭を撫でた。今日でさえもう何回目か分からないくらい、撫でてもらっている。夜寝るまでに、あと何回いい子、してもらえるかな。その手がそのままぼくの方へ差しだされて、ぽかんとしていると空いていたぼくの手とつながれた。
「おうさま」
「なんだ」
「今日はずーっと手つないでくれるの?」
「そばを離れると困る」
「だったらぼく、まいにちおでかけしたいよ」
「手ぐらいならいつでも貸してやる」
ぼくはぎゅう、とおうさまの手を握りしめた。おでかけはたのしい。だっておうさまが、ぼくを今日一日そばにおいてくれるなんて。
城を出てたまに遊ばせてくれるおにわを通りすぎると、見たことのない景色が広がってきた。ぼくがおうさまのお城に連れられてきたときは夜だったから回りが良く見えていなかったこともあって、はじめての場所。
今日はぜんぶが、はじめて。
「おうさまかみのけ黒くない?」
そうなのだ。さっきからチラチラと気になってはいたものの、訊けなかったが、外の日差しに当たると分かる、明らかにいつもと違うおうさまのかみのけの色。
いつも真っ黒。ぼくを連れていってくれたときに見た夜の色よりも、今日はすこしだけ茶色い。
「城以外の場所で、魔王とバレるのが面倒でな」
「黒いとバレるの? 茶色いと、バレないの? おうさま、バレちゃだめなの? なんで?」
「今日のおまえは質問ばかりだな。……外はそんなに嬉しいか」
「うん!」
「そうか。……茶色いとバレない、だろうな。今日はおまえと静かに外へ出るつもりだったから。魔王とバレるとおまえの相手をしていられなくなる」
そ、それはいやだ!
今日はお仕事にもおうさま取られない! 今日はぼくのだもん!
「おうさまかみのけ、ずっと茶色ね!」
「ああ。……エル、前を見なさい。転ぶ」
「ん!」
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