03
「なあに」
「お団子でございます」
「おだんご。美味しい?」
置かれた入れ物から溢れ出るように綺麗に重なり合って積み上げられている丸いころころ。白くて、おそるおそる触るとぺたぺたとくっつく。なんだろう、癒される。ふにふにと触る。
一番てっぺんにあった丸いころころを取り出して食べる。
「ん……んー……」
なんだろう。不思議な食感。あんなに癒される見た目なのに、中身はけっこうねちっこい感じというか。
うー……。
「んぐ……っ」
なんだか気に入らない食感。こういうものはさっさと飲みこんでしまおうと思ってごくりとしたら、ロビンとブラウニーが、あっという顔をする。それよりも先に「ばか」と零したおうさまがぼくの体を引き寄せた。急な接近に嬉しさが募るはずなのに、なんだかそれどころではない。
あれ、なんか引っかかってる。く、苦しい気もする。
「つまらせた。……水を」
「「はい」」
妖精たちの慌てた声が届くけれど、それどころではない。
けほけほと咳き込む。どうにかして引っかかったものを出したい。さっきまで、さっきまでなにもなかったのに、呼吸が。
「よく噛め」
「……っ」
本能的に草むらの方へ走り出した体を片腕で抑え込まれて、更に後頭部を抑えこまれて、すぐに口の中に冷たい水を流し込まれる。反射的に開いた唇から、冷えた水が喉に伝う。
こくこくと飲んでいると、いつの間にか呼吸が楽になってきた。喉を狭くするような異物感が消えていく。
「ん……も、いい」
コップを斜めにして半ば無理矢理水を飲ませていたおうさまが、ぼくの唇からコップを離した。急なことにパニックになったぼくを横目に、コップがすぐそばに置かれる音がする。
「はあ……くるしい、かった」
すこしだけ汗の滲んだぼくのこめかみを撫でて、なぜか目じりについた塩っぽい水をおうさまのやさしい指がぐいっと拭う。すこしだけ歪んでいた視界が落ち着いた。
塩っぽい水、なんだろう。不思議。舐めようとしたけれどおうさまに制されてできなかった。
「ったく」
すこしだけ荒っぽい口調になったおうさまがぼくの体を離して元の距離に戻す。ついでにタオルも巻き直された。ぐるぐる。
ぽかんとしたままのぼくに「猫だったとは思えない警戒心のなさというか……あほさというか……」なんて、ちょっとどういう意味!
コップも丸いころころもロビンもブラウニーもいつのまにかいなくなっていた。きょろきょろと見回すぼくに、また先刻と同じ「月を見るんじゃないのか」と言われる。
なんだかこれ以上他のものを見ていると、部屋に連れ戻されそうで怖かったので、大人しく空を見上げた。さっき、苦しかったなあ。喉になにかが入っていた。あれ、お団子かなあ。
「エル」
「うん?」
「おまえさっき草食べようとしただろう」
「ううん」
「なんで嘘つく。目が泳いでる。草は食べるなよ。人間はその辺に生えている草は食べない」
まあ半分猫だけど。そう言われて、耳を柔らかく摘ままれる。ぴくっと体が跳ねる。どうも耳はぼくの弱点である。触られると落ち着かない。そわそわしてしまう。
星もきれいだなあ。ぼくが住んでいたところは、あんなにはっきりと星見えなかった。もっとすくなくて、遠かったような気がするのに。あの世界とはやっぱり違うのだろうか。不思議。
風が吹くと、クスクスと笑うようにおうさまとぼくの間を狙って通って行く。なんだかちょっといやでちらりとおうさまを伺う。
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