02
――おまえがしたいことをすればいい。
この城に来て、今までの生活とは一転して、ご飯を食いっぱぐれることはなければ、どこかで命の危険にさらされることもない。
だれの目を気にすることもなく、ぼやぼやと起きておうさまにおはようと声を出して、一日を過ごす。嘘みたいに自由すぎて、逆に何をしたらいいのか分からなかったぼくに、おうさまはそうひと言だけ言った。
(したいこと)
ぼくのしたいことは、おうさまのそばにいること。
人間の冷たい城で、あの夜の瞳に捕らわれたから。
――おうさまの、そばに、いたい。
おうさまは、ほとんど変わらない表情で、だけどそれまでよりも僅かに口端を上げて、ぼくの頭をくしゃっと撫でた。
それ以来ぼくはおうさまとする遊びを考えていた。
またたび。またたび。……でもまたたびってどこにあるのだろう。
飼い猫が自慢していたオモチャとやらでも遊びたい。……でもおうさま猫飼ったことないから持ってないかも。ぼく今人間だし。
どうしたものかとぼんやりと考えているうちに数日たって、今日――。
「エル」
コンコン、というノックとほぼ同時に、ぼくの部屋の扉が開いた。朝見たっきりのおうさまが中に入ってくる。
なんだか、おうさまがこの部屋を歩くと、壁に掛かっている絵画とか、すこしだけ慣れ始めたチェストとか、ぼくの眠っているふかふかのベッドさえも、ひとまわりくらい小さく見える。おうさま、大きいなあ。
「……」
「エル。また話すことを忘れているのか」
「ちがう。考えてて。おうさま、休憩何時まで」
「別に何時でも。雑務が立てこんでいるわけではない。おまえのすきにすればいい」
「ほんと?」
「ほんと」
じゃあ、長く、おうさまと遊べるかなあ。
ベッドの上にいた体を端までずりずりと滑らせて、そのまますこし高さのあるそこから下りた。おうさまが「猫みたい」と言った。だからぼく、ほんとうに猫なんだって!
「おうさま、来て」
「引っ張るな」
おうさまの纏うどこか気品あふれる服の裾をぐいぐい、と引っ張るけれど、ぴくりともしない。服を引っ張るなということは、その服はおうさまの愛用で、ぼくにあまり触れてほしくないということだろうか。
なんとなく、む。
だけど今日は遊びが大事だ。
ということで、おうさまの大きな手を握って、部屋の奥へと連れていく。床から木の芽が生えておうさまの足に絡みついているのではないかというくらい床から離れなかったおうさまの足は、すんなりと動いてぼくの跡をついてくる。
おうさま、手、冷たいなあ。ぼくよりも全然、爪が長くて。
「おうさま今度爪切っていい」
「俺のか」
「うん」
振り返ると、おうさまはちょっと変な顔をしていた。
おうさまを連れてきたのは、ぼくの部屋の一番奥にそびえる、そう、ベッドである。おうさま、普段はほんとうに表情変わらないから分かりづらいけれど、今はちょっと困ってるかなあ。
だけどすきにしていいって言ったのはおうさまなので、ぼくは躊躇しない。
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