02
*
「翔吾、帰りはー」
「先輩をつけろ。敬語をつけろ」
「翔吾せんぱい帰りはどうしますか」
「俺も今日は直帰するからここで待ち合わせ。いなかったら教室行く」
「あい」
昇降口を超えれば一年の棟と三年の棟は真逆になっている。職員室や保健室側へ行くのが三年の棟で、一年と二年は同じ棟だ。せめて一年違いだったら同じ棟で過ごせたのにと心のどこかで思っているおれは、いつまで経っても翔吾離れが出来ない。
唇を尖らせていると、ぽんぽんと頭を撫でられる。
翔吾はおれに先輩をつけさせたがったり、敬語を使わせたがったりする。学校では、距離があるみたいだ。ふたりのときはなにもいわないのに。
「……陽太」
そんな顔するなと言いたげな翔吾の顔。
「上下関係はタテマエだけでもしっかりしないと、他の上級生にいびられる」
「う……」
「心配だから」
「うう」
そう言われてしまえば仕方がない。翔吾は心配性だから。
頭に乗った手が離れて、わかりました、と頷いたおれから翔吾が背を向けた。その背中が階段に消えるのをなんとなく見送ってから、おれは踵をかえして一年の教室へと向かった。今日は結構、遅刻ギリギリかもしれない。
あたりにいる人は、わずかにではあるが足を早めているようだ。
「今日はいつになくギリギリだねえ」
「あ……こんにちは」
職員室から受け持ちのクラスへ行く斉藤先生と、入学した直後からよくこうして廊下で出会う。斉藤先生はおれのクラスの数学を受け持っていて、ちなみにとなりのとなりのクラスの担任だ。
「先生も遅いですね」
「うん、職員会議があってね」
「なるほど」
遅い者同士ここで会ったわけだ。
数学の先生、と考えて、さっきの悪夢がよみがえってきそうになって、慌てて首を振った。
高校の数学は難しいけれど、先生はとても教え方が丁寧で、おれがついていきやすいほどよい速度の授業をしてくれる。だからおれは先生がとてもすきだ。先生もよくおれを気にかけてくれている。
(入学のときの学力テストで、たぶん、おれの実力の無さを知ってるんだ)
そういうわけでついていきやすいように気にかけていてくれるからか、おれと先生は結構仲がいいほうだと思う。まだ五月になったばかりなのに。
「立花くんのクラスはたしか三時間目に入ってるよね」
「おれ、ちゃんと復習しました!」
「うんえらい」
にっこりと笑った先生が、おれのクラスの入り口を抜けて、「またあとで」と去っていく。その若いけれどしっかりした姿を見ながら、おれはクラスに入った。
クラスとはだいぶ打ち解けてきた。ひとみしりだから、最初は翔吾に泣きついていたけど。
「おはよう立花ー」
「はよ」
挨拶もそこそこに席に着くとちょうどチャイムが鳴って、朝のホームルームがはじまった。となりにずどんと腰掛けた影に顔を上げると、仁王立ちならぬ仁王座りしたゆかりちゃんがいる。
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