04
*
バイト先のプライベートの中の明かりが煌々とついていると思ったら、小さなその部屋に大の字になって眠っている二十代とは思えない老けたおっさんがいる。よくもまあこんなきったないところで寝られるもんだ。
「店長ー、起きてください」
ここまでスーツの似合わない社会人もいないってものだろう。
寝そべっている店長を仁王立ちで見下ろす。返答がない、もう一度念のため「店長」と言うけれど、不快ないびきが聞こえるだけだ。すこしだけ右足を浮かせた。
「起きろ!」
狙うは横っ腹。鈍い音と共に店長の体が僅かに跳ねて、「わあ!」と目を開く。ついでに状態も起きた。目をパチパチさせながらこちらを見上げる。
「んー? こえちゃん?」
「おはようございます」
「今何時?」
「十時過ぎた」
「え!? 店開いてんの!?」
「夜の十時ですよ! 閉店!」
「お……」
店長が安心したようにふにゃりと体の力を抜く。こうしてみるとどこのサラリーマンよりも疲れかたがえげつない。「なんだあ、今日も無事に営業終わったか」とぼんやりと呟いてからおれを見て、「ところでなんでまだいるの? こえちゃん今日九時上がりだよね?」とか抜かしやがる。
おまえが寝過ごしてるから店閉めするやついなかったんだよ。
そうはいっても疲れているおじさん。慢性的な人不足であるこのバイト先へ出勤する津度、店長を見ない日はない。
(いつ家に帰ってるんだろう)
「あ、そっか。店長が下おりなかったから上がれなかったのか。ごめんねえ」
「ほとんど閉まってるのであとはお願いします」
「うんうん。閉めは入りたくないって言ってたのに、結局遅い時間だねこえちゃん。申し訳ない」
越田さくら、だからこえちゃんなのは分かるけれど、いったいいつが、ちゃんづけはきついと言うタイミングなのだろう。全然分からない。
「こえちゃんこえちゃん」
「はい」
店長が上体を起こしたまま手探りで黒い通勤用鞄を引っ掴む。ぼろい財布から抜きだしたお札を一枚、おれのほうへつき出す。
「いりませんよ」
「メシ食ってないだろう。これで食え。あと上がり時間伸ばさせたし」
金、貯めてるんだろうと、言われる。たしかに無駄金はいっさい使いたくない。
悪いと思いながらも、店長はこういうとき一歩も引かないことを分かっているので、大人しく「ありがとうございます」と受け取った。コンビニ、寄って帰ろう。
今日はなんだか、十一時ギリギリまで帰りたくない。
「気をつけて帰りなよこえちゃん。保護者心配するから」
「はーい」
鞄を戻した店長が立ちあがってぐーっと伸びをする。これから閉めかあ、なんてぼやいて、時計を見て、そうしたらもう店開ける時間まであんまないなあと。
(ほんとうにこの人、風呂とかいつ入っているのだろう)
壊滅的な生活サイクルだと思う。ほんとうに。
店を出て電車に乗るまでの道の途中、小さめのコンビニでおにぎりを買う。余った分は、明日出勤するとき店長に返そう。
(明日も、バイト)
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