10
*
「……んう」
次に目を覚ますと、今度こそ本当に外は暗くなっていた。電気もついているけれど、佐和の姿はない。取りかえられたのか、冷えピタはまだひんやりとしている。
(おなかすいた)
ぽす、とベッドで入口に背中を向けて丸くなる。
(ていうかおれ!? なにした!?)
さっきまでの佐和とのことを思い出して、途端に顔が真っ赤になる。うう。
――かわいいよ。
いつもより低めに囁かれたその声が、頭の中でリフレインする。
(やばい……またどうにかなりそう)
正確には、下の方が、という話なのだけど。
(おれ、佐和にどんな顔で会えばいいんだ……)
「あれ、さくら起きたの?」
「わわ!」
不意にドアを開けられて、体が飛び上がりそうになる。入ってきたのが分かったけれど、「あ、うん起きたよ!」なんて普通じゃいられないのがおれだ。
心臓が、どくどくと脈を打っている。
「さくら、おなかへったでしょ」
「う、……うん」
「なにか食べる?」
「な、んでも」
「……くっ」
背中越しに、我慢出来ないといわんばかりに佐和が噴き出す音が聞こえる。
「な、なんだよ!」
思わず布団を跳ねのけて佐和の方を向くと、そのままぎゅう、と抱きしめられた。
「かわいい。テレてるんだねえ」
「う……」
「素直じゃない」
「うるさい……」
「真っ赤」
冷えピタ越しにおでこを撫でられて、また、赤面する。しばらくそうして、また、おれの体を丁寧に布団に戻してくれる。
「さて、うどんがあったから作ったよ。食べる?」
頷いた。
「さわ」
「ん?」
「……さっきの、平気、だった?」
一度扉に手をかけていた佐和が、はあ、とため息をついて、またおれのところに戻ってくる。頑なに目を合わせようとしないおれの頭をゆったりと撫でて、綺麗に笑った。
「おかげさまで。さくらが気絶したあとひとりで処理するくらいには興奮しました」
「……っばか」
「うん」
ずっと、いっそかなわないなら逃げたかった。この手の安らぎから、逃げられるはずなかったのに。
今その手は安心させるようにおれの体を包み込んで、ついでに、温かな言葉をくれる。
「覚悟してね。俺、これからさくらのことを離れていた何百年分も愛さなきゃいけないから」
遠い昔、愛惜の日々を、今の絶対的な愛の物語に変えて。
――愛してる。
たとえその悠久の時に散るとしても、二度ときみを放しはしない。
――end――
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