07


「きらいだよ」

「佐和」


 すきだよ。


「にくい」


 いとおしい。


「……きらいっ」


 あのとききみが言ってくれた言葉。

 愛してる。


 それが、すべてだった。


「さくら……」


 佐和は酷い。


「佐和は、全部忘れたんだ……っ」

「さくら!」


 無理矢理顎を掴まれて、上を向かせられる。


「こっち見て!」

「いやだ! 放せ!」


 暴れた。腕を突っ張って、布団を蹴りあげて、乗り上げる佐和から身をよじって、逃げようとした。両腕を掴まれても、足で下半身を拘束されても、その腕の中に強く抱きこまれても、泣きながら、暴れた。


「……っ」

「放さない。さくらを守ると、言った」


 ――守るために、剣をふるうのです。


 息を飲む。

 抵抗を止めたおれをすこしだけ放して、切なげに黒い双眸を揺らしたかれが、おれの涙を拭った。


「お願い、勘違いだったらもうしない。なにも聞かない。さくらの自由にしてあげる。今まで通り、なにも関与しないよ。……だから、最後にひとつだけ教えて」

「……っ」

「おまえは、俺がなにを忘れたと思っているの――?」


 切なげに微笑する佐和の背中に、本能的に腕を回して抱きついた。肩口に、涙が滲む。おなじか、それ以上の強さで腕が回ってくる。


「さわが……っおれを、あいして、あいしてるって、言ってくれたこと……っ」

「うん……」


『あいしてる』


「来世で、あ、おう、て……言ったこと……っ」

「うん」

「さ、わが」


 信じられない強い力で抱きしめられて、佐和の匂いが濃くなる。


「ばか。全部、覚えてるよ」

「……っ」

「必死におまえを探してた。今度は俺が見つけると。だけどあの日出会ったとき、おまえが俺を拒否したんだと思ったんだ……だから、せめてそばにいようって思った」

「ちがう! ちがうさわが……っ」


 うん、ごめん。

 俺は忘れていないよ。


 あらくてすこしだけ熱い、佐和の息遣いが、聞こえる。近くに。それだけでもう、心臓が壊れてしまいそうなくらい高鳴る。


「さわ……ごめんっ」

「うん」

「おれ、おとこに、生まれた……っ」


 そんなの関係ない、佐和が、おれを見つめる。佐和の大きな手が、汗で張りついたおれの額の前髪をかきあげて、頬を撫で、包み込む。


「関係ない。俺がすきになったのは、さくらのその、魂だよ」

「……っ」

「俺の思いは、変わらない」


 息もできないほどの愛を知った。きみのためなら死ねるとすら思いながら恋をした。



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あきゅろす。
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