05
*
「う、うつ、くしい。なんてうつくしい、オヒメサマだ」
「ストオオオオオオップ!」
見事なプロデューサー巻きに、髭に、ちょっとおしゃれなサングラス。業界マン気取った自称監督(クラス委員長)が常に右手に従わせる新聞紙の丸められたメガフォンは、
「いたい……」
今や俺の頭めがけて振り下ろされるものでしかない。
「和音くん! 和音くん台詞見ながらなのにそれ!? 残念すぎるよ!」
「まあまあ委員長、まだ始まったばっかりだし」
「棒!」
こ、こわい。だって、演技なんてやったことないし!
委員長の頭、「目指せ内申!」とでも書かれた鉢巻き巻いてるみたいになってるよ!
今は始めということで、とりあえず朗読のようにそれぞれの台詞を読んでいる最中なのだけど……、委員長の俺をなじる声がでかすぎて、もはや衣装班の子たちまでこっち見てるし……。
「お、俺やっぱり向いていない……」
「大丈夫だよ。始まったばっかりだし」
顔面蒼白な俺とはちがい、のほほんとした表情の悠里が笑う。肩をぽんぽんと叩かれるけれど、その手を振り払いたくなる。だって!
こいつめっちゃ上手い! もはや白雪姫でしかないんだもん!
「えーっと、なに?」
「ふん!」
俺の気持ちなんて分かんないよ!
頭を抱える委員長と、ふて腐れる俺と、相変わらず苦笑する悠里。前途多難である。
「こうなったら、放課後特訓だよ! 和音くん! きみだけ!」
だめだ。俺、委員長の後ろに燃え上がる炎が見える……。
「密室でふたりっきり!? 何それナニするの!? 委員長×平凡! よく見たらなんだこいつ可愛い的な!? 誰トク!? ぼくトク――っ」
「おまえ黙ってろ」
衣裳係からなにか大声で言葉が飛んで来たけれど、次の瞬間には近くにいた人たちに消されていた。
放課後は、悠里とさっさと帰りたい。いつも放課後が、悠里と二人っきりになれるチャンスだし。
「えーっとあの、俺放課後はちょと……」
「え?」
「あ、はい、残る」
うう。悠里との唯一の時間が……。
そんなことを思っていたから、後ろに近づく影に気づかなかった。
ぽん、と大きな手が頭に乗っかる感覚。
「ほえ?」
「ぼくが残るよ、練習相手いたほうがいいでしょ」
ぽかん、と、委員長が俺よりも頭何個分上にある悠里の顔を見た。俺も悠里を振り返るけれど、真っ直ぐ委員長を見つめる悠里が何を考えているのか分からない。
(悠里、放課後はさっさと家に帰りたい派だよな……)
「いやあでも――」
「残るよ」
「い、いいの? だって、悠里――」
「いいよ。ぼく和音と練習したいな」
にこりと、人好きのする笑顔で言われては、断る術もない。俺が使えない役者なばかりに巻きこんでしまっている。
(受けなきゃ、よかったかも)
悠里に頭をぽんぽんと撫でられながらも俯いてへこむ俺は気づかなかった。
衣装班の宇宙人が座る机が、鼻血の海であったことに。
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