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 とにかくそうして一日目は徹底的に閉鎖的なこの空間で好き放題やって、二日目に「わたしたちはこんなに清く学校生活送っています」というなんとも礼儀正しい文化祭をやるらしい。ホモのホの字すらおくびも出さないらしい。

 どうでもいいけれど。なんて思っていたら、背後に明らかに闘志の炎を燃やしたクラス委員長が前に出てきた。……あれ、たぶんメガネ外したら目据わってんな。


「優勝狙ってんだね、イインチョウ。先生が成績考慮してくれるらしい」

「あほだ」


 俺たちがぶつくさ噂話しているなんてつゆも知らず、妙な闘志を燃やしている委員長が「役割を決めたいと思うが」なんて語り出す。


「そのまえにひとつ俺から言っておく。この文化祭は遊びじゃない。やるなら徹底的にやるぞ。せいせ……これからのクラスの交流のためにも、みんなで一致団結した方がいいだろう。異論はないか」


 委員長途中まで言っちゃったよ、だだ漏れだ。

 とりあえず衣装係か証明係か、そんなところが安全だろうな。なんてぼんやりと考えていた。


「では」

「はいはいはーい! ぼく! 白雪姫は和音ちゃんに一票!」


 後ろの草原が勢いよく手を上げながら立ちあがってそう爛々と言い放ったのと、俺が異議あり!と手を上げるのは、コンマ一秒の差だったと思う。


「和音ちゃん早っ」

「おまえ……なに考えてやがる。俺が白雪姫とか笑わせんなよくそ原」

「えー……似合うと思うよお? 和音ちゃんちっちゃ……あ、ごめん」


 目で草原を黙らせてから「アホらし」と呟いて座りなおして再び前を見ると、黙ったまま相変わらずすごい形相でこちらを見る……委員長の姿。


「……松田かあ……悪くないな」

「はあ!?」


 なにかをぶつくさ言っているメガネを睨む。しかしよく見ると、他からも不躾な視線を感じる。ほら! 回りは俺が白雪姫なんてって思ってるだろうが空気読めよ委員長!


「柄じゃねえだろう。俺みたいな男」

「あ……和音ちゃん……」


 なんだか憐れむような声が後ろから聞こえて、振り返ると草原が苦笑していた。なんだその笑い。

 回りもぽかんとしていたことは知らない。なんだか、急に静かになった。なんでだ?

 だいたい白雪姫ってんなら、もっと可愛いやつを――。あ。


「そうだよ! 委員長! 悠里だろう可愛いといえば!」


 俺は振り返って廊下側の後ろの方で完全に傍観を決め込んでにこにこと笑っていた悠里を指さした。悠里が俺を見て、ん?と笑う。ちくしょう可愛いな。

「あー……」委員長がさっきのような品定めの目で悠里をじっとりと見つめる。「……悪くない」


 そうだよ……悠里の白雪姫かあ。

 ほれぼれするほど似合うに違いない。きっとその辺の女の子よりも似合うんだろうなあ。


「え、ぼく?」

「まさかの長身受けktkr!!!!」


 草原がなんか悶えているけれど、もはや日本語じゃない以上だれも突っ込めない。もう放っておくしかない。

 回りのクラスメートも悠里の可愛さは重々承知のようで、うんうんとうなずいている。俺も教室を見回して見たけれど、悠里以上の適任者はいないもよう。まあ、俺は悠里びいきだし。


「ぼ、ぼくかあ……うーん」


 悠里が困ったように考える。その間も委員長の熱視線は止まらない。おい。あんまり見るな悠里が減る。


「うーん。あんまり演技上手くないと思うけど、それでもよかったら」

「長身受けktkrフウウウウウ―――ッ」

「でも……そうしたら、王子様は和音がいいなあ。じゃなきゃやりたくない」


 悠里は最後に爆弾を落としていった。

 一度捕まえた悠里という格好の獲物を得た委員長が俺一匹なんぞ逃がすはずもなく。そう、もはや断る隙間など存在しなかったのである。



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あきゅろす。
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