03


   *


 お昼終わり、五時間目はじめの午後の昼下がりは、俺のブレイクタイムだ。いつも、ブレイクタイムなのだけど。

 いつものようにこっくりこっくりと舟を漕ぎながら、ひたすら時が過ぎるのを待って、やっと五時間目終わりのチャイムが鳴る。同時に限界ですというように額から一気に机に突っ伏した。


 ねむい。


 六時間目、なんだっけ。移動教室かな。だったら、悠里が迎えに来てくれるからいいや。

 意識を飛ばしかけた瞬間、後ろからぐわっと両脇の下に手を突っ込まれた。


「エイ」


 なんてふざけた声と共に。

 文字通り飛びあがった。


「すごいいい反応だなあ」

「この! くそ原!」

「ぼくの名前は草原です」

「そうげん!」

「音読みしないで。くさはらだって!」


 悪気の欠片もない後ろの住人は、時々変な宇宙語のような呪文のようなことをぶつぶつと呟いている変人である。それ以外のときはおおむねいいやつなんだけどなあ。

 たまにこうして、悪ふざけが過ぎるけれど。

 チャイムが鳴って次なんだっけなんて考えていると、後ろから「文化祭の役割決めでしょー! もー」なんて言われる。


「あーそうか。文化祭……」


 今年もこの、無駄に力を入れる面倒くさい行事がやってきたということか。

 わが校の文化祭は二日間にわたって行われる。一日目は土曜日でこれは生徒だけのもの、二日目が日曜日で一般公開を行っているもの。

 この文化祭にたいする行事の入れかたが、半端じゃない。去年お化け屋敷で特殊メイクをやらされて見事なサダコとなった悠里を見ながら俺が感じたことである(ちなみに俺のクラスはメイド喫茶だった。男だけなのにどんな需要があるというんだ。気色悪い。もちろん俺は裏方であった。なんかクラスメートからはあはあされたけど裏方であった)。

 今年はなにをやるのやらと思っていたら、なんと演劇らしい。しかも題目が――。


「白雪姫なんて、いいよねえ! 王子様と白雪姫のオトコ同士のラブラブストーリーだよお。しかも最後は生キッスなんてえーうへへ。しかも公開キスね。ふふ。俺様王子様×ツンデレ白雪姫とかにならないかなあー! それか白雪姫が可愛い王子様を襲ってしまう逆パターンでもいいなあー……ああ、うちのクラスはどうして真面目に白雪姫なんだろうなあ」


 でたキモ原。全然なに言っているのか分からん。しかもすごいマッハで喋ってる。数学の問題当てられたときの五倍くらいのスピードで喋ってる。


「キスはフリだろうが」

「ああああああ夢のないこと言わないでよおお」


 いつも閉鎖的な男子校ですが、実はすごいよろしい学校なんです、なんていうことを二日目の一般公開で見せるために頑張る。

 というわけではない。男子校にとって大切なのは一日目である、らしい。


「そうだよお? だって文化祭だよお? なんでもありじゃんよ! クラスの地味系男子をメイドコスさせたらなに超可愛いみたいになって一匹狼とくっついたりとか! 普段超俺様な会長が実はお化け屋敷でびびって隣のライバル風紀委員長に抱きついちゃってそこから愛が芽生えたりとか! 後夜祭で一途なネコちゃんがホスト教師に告白しちゃって卒業まで待つつもりだったがアーッみたいな展開とか!」


 キモ原に言わせると、よく分からないけれど、盛り上がるものらしい。



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