02


 無事にメロンパンをゲットして、悠里もおにぎりと焼きそばパンを購入。


「和音」

「ん」

「毎度のことだけど、和音のお昼のセレクトおかしいよね。……メロンパンふたつって」

「そんなことねえよ。メーカーちがうもん。ふたつともちがった美味しさなんだ!」

「そっかあ」


 ぼくには分からないなあ、とかなしそうに悠里が呟いた。そうだな、米とパン一緒に食べるやつには分かるまい。買ったばかりのふかふかであろうメロンパンを抱えていると、いつものような不思議な視線を感じる。

 じっとりと、斜め上でるんるんと歩いているエンジェルスマイルの悠里を睨んだ。気づいた悠里が「え、なに?」なんてとぼけたように首を傾げる。


「……おまえ、やっぱりかわいすぎる」


(また注目浴びてる)


 こうしてふたりで歩いていると、よく悠里に向けられる男たちの不躾な視線を感じる。威嚇するように悠里の手を引いて、早歩きで視線から守るように歩いた。


「和音?」

「いいから、来い」


 成長盛りでずいぶん手が大きくなったって、悠里は悠里だ。天使のように愛らしい整った顔立ちの悠里を狙う輩なんて、この男子校のなかじゃゴロゴロいるに違いない。


(すっごい視線感じるし)


 ぎゅっと、悠里の手を握りしめた。


(悠里は、俺のだ)


 ――おまえはおれのなんだから、ずっとそばにいるんだぞ!

 そのかわり、だいすきな悠里を、俺はずっと守りたい。

 悠里の手が小さな力で俺の手を握り返してきた。


 すこしだけ開いていた、埃っぽい空き教室に悠里を押し込むようにして入る。薄暗いそこで、メロンパンをその辺に放り投げて、悠里の手を引いた。

 悠里は抵抗ひとつしないで、ぽすんと俺に抱き締められる。


「悠里」

「和音、どうしたの? メロンパンはいいの?」

「いい。それよりも、悠里に触りたい」


 おまえは可愛くて弱いからずっと俺のそばにいて。そうすれば俺がおまえのことを他の男から守ってやるから。

 そんなめちゃくちゃなことを言いながら、俺は悠里が抵抗しないのをいいことに、その体に触る。


 きめ細かいなめらかな頬に手を滑らせて、柔らかい髪の毛に指を通すようにして撫でる。悠里がくすぐったそうに笑った。

 刷り込まれた悠里が絶対に嫌と言わないのを分かっていてこんなことをする俺は最低だ。


(それでも――)


「和音」


 真っ直ぐに俺を見下ろす悠里の双眸は、俺の思考を麻痺させる。悠里のことしか考えなくさせる。吸い込まれるみたいに。

 悠里が悪いんだ。そうやって俺を見つめるから。


 そのしなやかな両手が俺の背中をとんとんと叩く。構うものかと、かかとを上げて、精一杯悠里に顔を近づける。


(これ以上悠里が大きくなったら――)


 自然と受け入れるように目を閉じた悠里を確認しながら、俺も目を閉じて、悠里の柔らかい唇に自分のそれをそっと、押し当てた。

 ちゅ、という小さなリップ音。

 これ以上大きくなったら、俺からキスができなくなるかもしれない。そんなことを考えながら、じっと動かない悠里にもう一度唇を重ねた。

 守ってあげるなんて言いながらこうして俺は悠里にキスをする。抵抗ひとつしなければ応えることもない、人形のような悠里に。


 すきだと。


 声に出さずに唇から伝えられたらどんなによかっただろう。


(悠里は、俺にこんなことされて嫌じゃないの?)


 嫌なら言ってほしいのに、悠里はなにも言わない。だから、余計虚しい。

 もう何回したか分からない悠里とのキスに、俺ばっかりが夢中になる。俺ばっかりが悠里という大きな渦にのまれていくんだ。



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