08


   *


 変な別れ方をしてしまった。後悔したのは、それから三分も経たないうちだった。それでも引き返して謝るくらいの軽い気持ちではないので、そのまま濡れ鼠と化して家へ帰る。

 平日。どんなに悩んでも次の日の朝は学校に行かなくてはならない。

 どんな顔で会えばいいのか分からないまま勉強を進める手は止まり、最悪の気分で朝を迎えた。

 そしておれは、勉強をするという心の内の名目のもと、学校へ飛び出した。言い訳をしながら、奥底でほっとしている。朝は、会わなくて済むと。


『ほんとにどうした』


 新しくしたスマフォに届いたメッセージ。家に帰ってすぐに気づいた。なんでもないと送ったけれど、変なところ頑固に知りたがる里央が追跡を諦めるはずがない。


(いやだな)


 ほんとうに、ここまでくると、一層自分が心底親友だと思っている男から惚れられているという事実に気づいていないことまで、もどかしくなってくる。

 後から里央が後悔してほしくないから、こっちは必死に隠しているというのに。


(なんか、苛々してきた)


 頭がくらくらと回っていた。早めに学校についたはいいものの、結局単語なんか頭に入ってくるはずもなく、ぼーっとやり過ごす。多分半分くらい眠っていた。

 教室にちらほらと人が入ってくる。その中に沙羅もいた。


「早いじゃん」


 イヤホンを片耳だけ外した沙羅が挨拶もそこそこに言ってのける。


「勉強しようと思って。そのまま、ぼーっとしてたけど」

「無駄じゃん」


 朝いち、ぐさりと響く言葉。ほんとうに刺さっているような威力がある。諦めて、ぐでんと机に突っ伏した。受験生という姿からは程遠い。

 チャイムが鳴る音がする。頭にやけに響いて、目を閉じた。


 ――晃介!


 いつもふざけて明るく呼ぶ声とは違った、焦ったような声。背中に向けられた声に、振り向けなかった。ひどい顔をしていたから。

 どうして、そんなふうにおれに構うのだろう。

 たしかにおれたちはずっと一緒にいた。ともだちとしては、だれよりも近くにいた。だけど、強い繋がりまで求めようとしたことなんて、たったの一度もなかった。


(それ以上を求めて、期待するから)


 だから、耳障りだと思う。あの、なにかを逃すことを予感したような焦った声色が。おれを麻痺させる。

 いっそのこと、もう、楽になりたいと。ぜんぶ、思いのたけを、伝えられたらと。



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