04


「おいおいそこのカップルいちゃつくなよ」


 なんて、おれたちは外野からそういう風に思われているのは知っているけれど、おれだって沙羅だって無理矢理否定することはない。

 そいつらには、逆立ちしたって分からない思いをおれたちは共有していて。


「沙羅あー」


 なんておれが弱々しく抱きつくのは、このひとくらいだ。

 沙羅はおれの気持ちを知っていた。わたしも同じだからと笑って言われたのは、高校入ってすぐのことだ。それからおれは、里央のことを沙羅に話した。


「このまま同じ大学に入ったら、今度は四年間苦しいんだ」

「学部、違っても」

「どうせ同じ大学なら頻繁に会おうってなるんだよ」


 朝待ち合わせしているわけでもない。放課後会おうと約束しているわけでもない。それでもおれたちは気づくといつも一緒にいる。いわば腐れ縁みたいなものが、今すこしだけ辛い。


「沙羅は苦しくないもんね」


 さっきまで撫でていた沙羅の手が一瞬凶暴になって、ばか、とおれの頭をはたいた。


「苦しくないよ。恋なんてしたくない」


 沙羅が持っていた単語帳をおれの元に投げるようによこした。慌てて取ると、わかりやすく発音記号のメモがほどこされている。さっきおれがノートにメモしたものよりも数倍分かりやすい。というかおれのメモは既によく分からないことになっている。


「晃介みたいに辛いなら、したくない」


 もしかしたら、幸せかもよ?

 なんて無意識なことは言えなくて、おれは目を伏せた。沙羅はそれっきりまた前を向いて今度こそほんとうにちょっかいかけるおれを無視した。ひどい。



 授業が終わる頃、雨が降り始めた。


(この間は雨予報が晴れで、今日は晴れ予報が雨、と)


 なんというこったい。ついていない。

 なんとなくチャリの里央と鉢合わせるのがいやで今日はチャリを持ってこなかったのがまたなんというこったい。家まで三十分以上歩くことになる。チャリだと十分ちょいで家につくというのに。



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