13


 幼い頃は同じ時間を一緒に過ごせればよかった。だけど見ているだけじゃ足りなくなったんだ。触りたい。だけどどうやっても触ることなんて出来なくて、それが苦しかったんだ。


「それから、なんかおまえのこと考えるようになって」

「え……おれ?」


 すっとんきょうな声を上げたおれに、里央が苦笑する。だっておまえ、女の子よりも全然不器用だしじゃじゃ馬だしうるさいんだけど、ちょっと可愛いんだもん。なんて、さらりとした爆弾発言をした。

 文字通り、火を噴くかと思った。かかか、と耳の裏まで熱が集中する。


「おま……ちょ、ええ!?」

「なあ、晃介」


 下を向いていたから、気づかなかった。パーソナルスペースなんてゆうに超えて、息が詰まるほど近くにいた存在に。不意にさした影に上を向いたら、すぐそこに里央の顔があった。

 咄嗟に後ろにのけぞろうとしたけれど、手を後頭部に回されていて、がっちりと固定される。


「おまえのすきは、どういうすき?」

「……っ」


 ――おれは、おまえに、触りたい。


「俺は、」


 ちゅう、と音を立てて、頬を吸われる。抵抗しようとした手が大きな手にすくわれて阻まれる。目の前を見れなくて、まぶたをぎゅ、と閉じる。

 髪の毛に、反対の頬に、耳に、きつく閉じた瞼に、夢にまで見た里央のくちびるの感触。


「俺は、おまえに、触りたい」

「……っ」


 シンクロする思いなんて、奇跡だなんて。すごくあほなこと思った。


「りお……う」

「普段うるさいおまえしか知らない分、なんか、新鮮だな」


 信じられないくらい近くにいた里央が、にやりと悪戯っぽく笑った。遊ばれてる!抵抗しようとするけれど、こんなイケメンなやつに勝てるわけがない。ましておれは今一応病人だ。

 なんか、流される。


「興奮するわ」

「……っておい! そりゃ聞き捨てならねえ! なに言ってんだてめえ頭湧いたのかこら!」


 相変わらず終わりそうにないキスの嵐で、黙らせられる。


(信じらんねえ、なに言ってんだこいつ)


 早鐘を打つ心臓が止まらない。なんだか力が抜けてきて、指先がじりじりと麻痺する。そのときおれはこいつがとんでもなにテクニシャンだということに気づいたのだった。


「つまり」


 唇を離した里央が、とろけるような甘い笑みを見せる。おれが十八年間生きてきた中で、初めて見る表情だった。きゅう、と心臓が鳴るみたいだ。


 また、見つけた。新しい、表情。


「おれはそういう感情を抱くって意味で、おまえのことがすきなんだけど」

「この……っ」


 この無駄に顔がよくて無駄にテクニシャンな幼馴染に、おれは勝てない。


「おまえはどうなの?」


 つまりおれは、どうしたってこの幼馴染に翻弄される。俯いたままどうすることもできなくて、そのままほとんどぶつけるように言った。


「触りたいって意味で、すき!」


 色気もへったくれもない叩きつけるようなせりふ。しんと、すこしだけ静かになって、おそるおそる見上げると、さっきの意地悪な笑みからはいってん、ぽかんとした表情。

 ん?と思って首を傾げていると、不意に思い出したように、里央の顔が今のおれみたいに真っ赤に染まった。

 オレンジにはほど遠い、これもまたはじめて見る里央だった。



 オ レ ン ジ の キ ミ 。



(じゃあ、気を取り直して遠慮なくいただ――)

(ちょちょちょ! 待てばか!)


――end――




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あきゅろす。
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