12
小さな頃、ふたりで河原のまわりを走っていると、あっという間に夕暮れになった。ぼんやりとふたりで座っているとき、ふととなりを見ると、オレンジ色に染まる横顔があった。
そんな夢を見ていると、また、視界がふわりと暗くなる。温かい温度を頬に感じて、目の前のなにかに向かって手を伸ばした。
(温かい)
――晃介。
そう呼ばれた気がして、強く、しがみつく。ぎゅう、と。大きくて、おれのよく知っているシトラスの香り。
頬に感じていた温度が、髪の毛に、おでこに、吸いつくみたいになる。気持ちいい。
「晃介」
「……ん」
ぎし、という、すこしだけ控えめな音がする。耳元で囁くくすぐったい声。今、なにか聞こえたけれど、なんて言った?
「なんて、……?」
眩しいひかりが入ってくる。もう一度閉じそうになる目をそれでも開いたのは、そのひかりの正体が自分の部屋の明かりであることに気づいたからだった。
ば、と起き上がると、視界の端に捕えたカーテンはすっかり閉じられている。夜になってしまったらしい。
「起きた?」
「え……ええ!?」
なんで起きてからすぐとなりにあるものに気づかなかったのだろう。おれのベッドの端っこがこんなにへこんでいることに気づかなかったのだろう。あまりにも驚きすぎて、大袈裟なくらい飛び上る。
制服のままの里央が、今日もパーソナルスペースに入り込んでいる。慌てて距離を取ろうと思うけれど、これ以上横に行くと壁に寄り添うことになってしまい露骨な感じになる。
「え、里央……なんで」
「倒れられたからに決まってんだろうがばか。病院行こうと思ったわ」
里央の大きな手がおれの額に伸びる。いつの間にか張ってあったひえぴたをもう一度やんわりと押した。
「取れそうになってる。後で、もっかい変えるか」
「う……」
急に、さっきまでのことを思い出した。
いつもふざけておれに触ることこそあるものの、今の里央はまるですきなひとに触るかのようなやさしい手つきだ。
すきな、ひとに。
――やっと言った……っ。
あれは夢か。都合のいい夢か。それとも。
「顔、赤いけど。おまえ、それテレてんの? それとも熱上がったの?」
「……っ」
テレてない! けど熱は下がった!
いつもほれぼれするほどいい男だとは思っていたけれど、今日の里央は一段となんかやばい。こう、男のフェロモンが垂れ流しになっているというか。なんか、かっこいい。
……乙女かおれは。きもちわるい。
「中学のときから、おかしいと思ってたんだ」
「え」
「おまえかわいい女の子との惚れた腫れたみたいな話全然しないし。最初はおれしか友達いないのかなと思ったんだけど、おまえ結構クラスでも人気あったし、それも違うし。だったらこいつなんなんだろうって」
中学から、怪訝に思われていたのかおれは。
おれのがっくりとした表情を一瞥した里央が、慌てたように「おまえがもしかしたら……て思ったのは、もうすこし後だけどな」と加えた。
「なんかおまえたまに、すげえ切なそうな顔するから」
「……っ」
それは苦しかったからだ。
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