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「なんで言わなかった。内部から一般に変えるって」
「内部で目指してた学部、一般狙える大学にもあるって知ったんだ。だから」
「そんなこと訊いてんじゃない」
後ろに下がろうとするおれを止めるように腕が伸びる。掴まれた腕が、ひんやりと冷たい。その冷たさを感じると同時に、耳に届いた声。ちくしょう、なんて、らしくない声。
「ちくしょー、俺だけかよ。おまえとずっと一緒にいたいと思ってたのは」
限界、だと思った。
閉じ込めるにはとっくに飽和状態に陥っていた思いが、ドロドロと溶けだすように溢れた。
拳を、ぎゅっと握りしめる。
「……おれだって」
おまえと一緒にするな。おまえがどういうつもりでおれをここまで苦しめるのかはし知らないけど、おまえのずっとともだちでいたいみたいな軽い気持ちと。
(一緒にするな)
「おれだって、ずっと、一緒にいたい」
「晃介」
「だけど……っ。おれとおまえは、違うんだ……っ」
おれはおまえに触りたい。おまえに触られたい。そういう、変な気持ちでいっぱいなんだ。今だってこんなときなのに、触られた腕がじんじんするんだ。
違うんだ、里央。そう、掠れた声で呟いた。
聞こえたのは頭上から向けられた舌打ちで、さっきまで止めるように掴んでいた手に力が増す。次の瞬間には、大きなその手に両頬を救われて、ぐい、と上を向かされる。
見えるはずのだいすきな顔が、ぼやける。
「言えよ、晃介」
「……っ」
「どう違うんだ。おれとおまえの気持ちは」
ぽたりぽたりと、頬を涙が伝って、里央の両手を濡らした。それでも、手は緩まなくて、おれは、里央の視線に捕まったまま逃げられない。
「晃介」
この声が、すきだ。顔も。からだも。おまえのなかみもぜんぶ。
「頼むから、言えよばか」
まるでじれったいとでもいうような焦りの表情に、射すくめられる。おれはほとんど反射的に目をつむった。ぎゅ、と。
限界だった。そんなにされたら。
「すき」
「……」
真っ暗の視界の中、里央の息遣いだけが、聞こえた。
「おまえが、すきだよ。おまえに、触りたい。でも苦しいからもう――」
刹那、だった。引っ張られる感覚が。
ぎゅっ、と背中に手を回されて、大きな胸の中に引き寄せられる。
「やっと言った……っ」
……熱い。なんだか、さっきまで頬を触っていた手は冷たかったはずなのに、全身が燃えるように熱かった。ぼんやりとした意識の中、ふと、自分はなぜ抱きしめられているのかについて考えてみた。
「……り、お?」
冗談だったら、怒るぞ。そう言って押し返そうとしても、びくともしない。ぐらぐらとする頭で考える。
「……っ」
これは夢か。都合のいい夢か。
夢なら――。
「晃介? ……て、おい!」
都合のいい夢なら、すこしくらいぎゅう、と抱きついても、いいかも。なんて、思った。それが最後だった。体がずうん、と沈んだ。
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