08
それに、隠れて屋上に身を隠すことだってできるんだ。
だけどそれをしちゃいけない。
――紘、おいで。
御影は平穏が好きだった。目立たないようにわざわざ屋上で隠者みたいに過ごしているんだ。万が一長島くんが追って来てしまって屋上の存在がバレてしまったら、今度こそぼくは居場所がなくなるんだ。
もうほとんど、なくなっているようなものだけど。
「ひかる、そんなのほっとけよ。おまえには似合わないぜ。おまえのとなりには俺がふさわしいだろうが」
「紘のこと悪く言うなよな! たしかにおまえは美形だけどさ!」
それに――。おれの手首に込める力は弱めないというのに、そんなこと気にしていないかのように呑気に会長と会話を楽しむ長島くんを横目に、思う。
(御影は、かっこいいから)
いくら生徒会や風紀委員会に疎いぼくでも分かる。御影は、この比較的美形だらけの学校の中でも、群を抜く美貌の持ち主だ。それは間違いない。
そんな御影を、もし、長島くんが見つけてしまったら――。
(いやだ、いやだいやだ)
友達も平穏な生活も、全部長島くんがさらっていった。それで被害者ぶるつもりはない。ぼくが悪いところだってあったんだ。きっと、どこかでぼくが悪いことをしてしまったんだ。
だからしょうがない。我慢できる。
だけど――御影は。御影だけは、……。
ぼくは見たくないんだ。
――おまえかっこいいな! 名前なんて言うんだ!?
御影が、気味悪いほど眩しい太陽の光にあてられて、惚れこんでしまうかもしれないということが、怖いんだ。すごく。
だから会えない。
この気持ちは、なんだろう。
「斉田くん」
――え。
ぐい、と長島くんに掴まれていない方の手を取られて引っ張られる、そのまま肩に腕が回されて、守るみたいに引き寄せられる。斜め上を見上げる。
振り向いた会長たちが、一瞬だけ瞠目する。
「かいけい、さま……?」
「お取り込み中わるいけど、この子はもらっていく」
え――。
「あ――――! 碧おまえなにしてるんだ! 聞いたぞ! みんなが生徒会の仕事している間、おまえセフレいっぱい作って、その、いかがわしいことしてるんだろう!」
会長たちと会計の微妙な空気にも気づかない長島くんが、大声でとんちんかんなことを抜かす。とたんに周りがざわざわと避難の声で溢れるのが分かる。
(みんな知っているんだ。会長たちが仕事していないこと……)
「寂しいならおれが一緒にいてやるよ! 碧もそんなんじゃだめだ! おれと一緒にいなよ!」
聞きわけのない子どもがごねるようなキンキンとした声に、それでも会計は眉間にわずかに皺を寄せるだけだった。ごく自然な動作でぼくの手を掴むその手を放させ、会長や長島くんから遠ざける。
「きみは黙っててよ」
「きみ!? おれのことはひかるでいいって言ってるじゃんか! そんなんじゃだめだ!」
「とにかく、斉田くんはもらっていくよ、あとはそちらで自由にして」
相手をするのも億劫なのだろうか、とうとうスルー。ここまで堂々とした態度もすごいなあなんて、自分が置かれた状況から幽体離脱しているみたいに、ぼんやりと考える。
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