07
*
「――た、斉田!」
「……はい」
「いい加減にしろ、この問題を解け」
「ごめんなさい」
授業中のうたたねが、最近目に見えて多くなった気がする。先生が怒るのもしかたがない。四十五分、どの時間を切り取って見てもぼくはうとうとと机の上で頭を揺らしているに違いないから。
なんだか最近、ベッドに入っても眠れなくて。
(からだ、おかしくなったのかな)
ストレスだとか、そういうふうに被害者ぶる気持ちは毛頭ない。結局あの子に振り回されているのはぼくのせいなんだから。だけどすこしだけ疲れてしまっているみたいだ。
(御影に、会いたいからかも)
あれからやはりずっと、屋上には行けていない。
「紘! 紘! 紘ってば!」
「うわ! ごめん、どうしたの?」
「おれが呼んでもおまえずっと返事しないんだ! そういうのやめろよ! 友達いなくなるぞ!」
もういないけどなあ。
「だけどおれがついててやるからな! 紘はおれがいないとだめなんだ!」
あまり見ていて気持ちよくはない黒いモジャモジャが、ぼくの頭上でせわしなく揺れている。長島ひかるくんは、休み時間になるとおれの元へやってくる。これじゃあ友達いなくなるよ。
なんて、言えないけれど。
――キレイだな! おまえ、名前なんていうんだ!?
自覚症状はないのだろうけれど、長島ひかるくんは美形というものが好きなのだと思う。生徒会役員にしても他に虜にしてきた人たちに関しても、共通して言えることがそれだからだ。
そして学校からもてはやされていた美形軍団たちは、コロリと長島くんに落ちてしまうのだ。
「ひかる、おはよう。今日もかわいいね」
「おいひかる隣来いよ」
「「会長副会長しつこいしうるさい。ひかるはぼくのとなり!」」
こうやって。
「おまえら! 今おれは紘と話してんだ! 邪魔するなよ! 紘が友達いないからおれがいてやらなきゃだめなんだ!」
今日もすがすがしく、この美形軍団にこの世のものとは思えない般若の形相で「おまえ今日もひかるの隣にいるのか。身の程をわきまえろ死ねよ」的な視線を向けられるところから一日がはじまる。
胃がきりきりしてきそうだなあ。
「でもおまえらもおれにかまってほしいんだろ! しょうがないなほんとう! みんなで遊ぼうぜ!」
そして、長島くんもまた、美形軍団をそれなりに気に入っているに違いない。
細いわりに身をよじりたくなるような強さで手首を掴まれて長島くんに引っ張られながら、おれは今日も静かに深く、だれにも聞こえないようにため息を吐く。
御影、会いたい。会いたいんだ。
(だけど、会えない)
長島くんに引っ張られているから、だから会えないんだとか、そんな言い訳はできない。長島くんが生徒会室に連行されていくときとか、生徒会役員以外の美形軍団に囲まれているときなどは、つかの間の休息のようにぼくはひとりでいられる(最近はその合間を縫って狙ったように可愛いチワワちゃんたちから呼び出しを食らうのだけど)。
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