06



 生徒会役員に恋をするいわゆる親衛隊なんてものから、平凡な分際で皆様に近寄るなんて身の程をわきまえろと罵られ脅されたことなんて一度や二度じゃない。

 その生徒会役員からはぼくがいるから長島ひかるくんが自分たちをしっかり見ていてくれないと邪魔者扱いで嫌がらせも日常茶飯事になった。


 さっきは、そうだ、会長の親衛隊に頬ひっぱたかれたんだっけ。

 ひりひりする。


「大丈夫? 腫れてる」

「大丈夫です、ありがとうございます」


 そういえば下半身ゆるゆるなチャラ男で名をはせていたはずの会計なのに、どうしてだか長島ひかるくんに近づいているのを見たことがなかった。


「もしかして、会計さま、ひとりでこれを――」

「んー志野ちゃんが手伝ってくれてるけど」


 困ったように会計さまが言う。壁に寄りかかって腕を組んだままの副委員長が「何言ってんだ。ほとんどおまえひとりだろう」とボソッと言った。


 転入生の出現。今まで学園のどんな絶世の美少年にだって振り向かなかった生徒会役員が尻尾振って宇宙人みたいな生き物に懐いているのだ。大問題である。

 親衛隊は怒りで身を震わせ、学校の一般人は噂をしながらも平穏な生活の維持のため解決に尽力しようとはせず、生徒会は荒れ、学校が機能しなくなり、悪い連中がどさくさにまぎれてオイタをし、そのぶん風紀も荒れる。

 副委員長によるよく分かる解説だ。まさしく今の学校である。


「一年の斉田紘だろう」

「え……」

「よく被害者リストに載ってる。マリモ……転入生絡みでな」


(今、マリモって言った)


「ごめんね。クソマリモ……破天荒な転入生に巻き込まれている子がいるっていうのは、知っていたんだけど、なにもできなくて」


(クソって、ついてた)


 フラストレーションだ。ふたりから、並々ならない悪意を感じる。ふ、と笑ってしまう。


「あ、笑った」

「え」

「笑ったね、……紘ちゃん」


(紘ちゃん?)


 にこにことこちらを見る会計。……この人絶対下半身ゆるゆるチャラ男とか嘘だ。

 噂なんてあてにならないものだ。


「こいつ、変だから気にしなくていいぞ」

「ひどいな志野ちゃん」

「ちゃんをつけるな。あとおれはおまえよりも一つ学年が上だ。三年だ。敬語を付けろ」

「やだ」

「駄々こねるな」


 副委員長、赤ちゃんの相手しているみたい。

 それでもきっと会計が心配なんだ。きっと風紀だってパンク寸前だっていうのに、ひとりで頑張っている会計を気にかけているのだ。

 なんだか、いいなあ。

 ほほえましいふたりに、自然と笑みが零れる。


「あ」

「あ」

「笑った!」


 また、会計がおれをさして驚いたようにいう。それが面白くて、「ぼくだって笑います」って、またすこしだけ笑ってしまった。

 心がほぐれていく感じ。

 久しぶりに笑えた気がしたんだ。ずっとずっと、ほんとうはつらかったから。


 友達にも見放されて、代わりに馬鹿みたいに呼び出されて罵られていじわるされて、そして――。


(御影)


 同じ明日が来るなんて、なんて甘い考えなんだろうって。


 ――明日また来るね。


 ぼくは、あの日から一度も、屋上に足を運べてはいなかった。



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