05
「う……てことは」
ここはやはり、
「驚いただろう。生徒会室の変わり果てた姿に」
やっぱり――――――!
なんで!? なんでぼくはここにいる!? ちょっと気を失ってたぼくが悪かったけどさ! よりによって会計までいるし!
ていうか、「志野ちゃん」なんて可愛い感じで呼ばれているから全然考えていなかったけれど……そして今急にピンときたけれど、「……真柴、志野……風紀副委員長?」なんて言ったらその人は疲れたように頷いた。やっぱり――――――!
(なんでぼく! ぼくついにほんとうに小さいチワワに殺される!)
「百面相してる。面白い」
「やめろ水無瀬。パニックになっているだけだ」
てことは。
「ぼく帰ります! 他の役員さまが来たら――」
今度こそ殺される! あのチワワちゃんたち力弱いと思っていたけど、わりと標準的な男の子の力持ってるんだよ! ぼくの首なんてゴキッと!
(あれ、なんか、力が)
――ふらっ
立ちあがったはいいけれど力が抜けて、そのまま頭がクラクラする。合わせるように立ちあがった会計がぼくの腕を掴んでバランスを取ってくれて、そのまま落ち着いた。
「落ち着けって。そう焦んな。しばらくほかの役員は帰ってこねえよ」
ぼくをふたたびソファに座らせる(まるで縫いつけるように強引なのは置いとこう)会計を一瞥しながら、副委員長が言う。めちゃめちゃ眉間に皺が寄っている。ちょっとデキナイ部下を持ってフラストレーション溜まっちゃってるサラリーマンみたい。
そうだよ、ゆっくりしていって。なんて、すこしだけ寂しそうな目をして言った会計を見て、ああ、と合点が言った。
会計の他には風紀の副委員長しかいない放課後の生徒会室、溜まりに溜まった書類に回っていないのだろう仕事、荒れた生徒会、――荒れた学校。
――へえ! おまえ紘っていうのか! おれ長島ひかる! ひかるって呼べよな! おれもおまえのこと紘っていうから!
――紘どこ行くんだよ! ひとりで行くなよ! おれがいないとだめなんだからな!
――あ、おれ食堂行きたいな! 紘も行くだろ! おれがついててやるからな!
明らかにカツラと分かるわかめみたいなモジャモジャをかぶり、虫眼鏡みたいにぶ厚い伊達メガネをかけた少年が転校してきたのは二週間前。理事長の代理だとかコネで入ってきたとかほんとうはどこかの不良グループの総長だとか噂は色々あるけれど真相は知らない。
すべてが変わったんだ。ぼくの周りも。仲のいい友達はすべていなくなって。
生徒会室も。聞けばジャイアニズム全開な会長、ハモリにかけては天下一の双子庶務、常に無言を貫いていたはずの書記をはじめ、クラスの人気者、一匹狼、保健室のセクシー保険医とうとうが、こぞって転入生を追いかけ回しているだとか。
学校はそんなことないなんて笑っていた。ありえないと。この目で見ていないんだからと。
だけどぼくは知っていた。それがすべてほんとうのことだということに。
――おれは紘の親友だからな! おまえら紘のこと悪く言うなよ!
ぼくは長島ひかるくんがハリケーンのように周りを巻き込み壊していくのを、一番そばでみていたのだから。
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