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「すきだよ」
「……みか、げ」
「おまえが屋上に来なくなって焦った。転入生に巻き込まれたって知って気が気じゃなかった。役員におまえの魅力がバレるのも心配だった。……まあそれはあのクソ転入生に唯一感謝できるところだがな」
ん、どういうことだろう。小首を傾げるようにしたけれど、それ以上答えることはなく、御影は先に進む。
「おまえは屋上に来ないし、急に風紀の仕事は溜まるし」
「みかげ……」
「気が狂うかと思った」
たしかめるように、もう一度抱きしめられる。
「みかげ、すき」
「おまえ……ほんと、それ以上なんも言うな」
「なんで?」
「かわいすぎて、どうにかなる」
どうにかなるのはぼくだよ。御影。御影がぼくを甘やかすから――。
頬を撫でる手が、唇に触れる。なんだかいつもとちがう、じりじりと熱っぽい御影の視線から目が逸らせない。そのまま唇が――。
「おいいきなり食堂に現れたと思ったらこのクソ委員長! おまえのせいで学校は大こんら――……むぐっ」
「志野ちゃん、うるさいよー」
重なる、なんてことはなく。ゼロだったぼくたちの隙間をほんの五センチくらい開けた御影が、不機嫌そうに「副うるさい」と呟いた。
騒がしく音を立てて風紀のドアを開けたのは、息を切らしたまま眉を吊り上げている真柴先輩と、後ろからはがいじめにするようにして無表情で真柴先輩の口元を覆いながらこちらをじっとりと見つめる水無瀬先輩だった。
「おまえらが心配しなくても、俺が紘を守るからいい」
「いや……制裁の対象というよりは……余計な虫がつきそうだぞ紘は」
「ちっ」
ん、どういうことだろう。
首を傾げて御影の方を向くと「なに、なに」と聞きたいアピールをする。御影はぼくのことをフルシカトする。
「言っとくけど、真柴のこと許したわけじゃないから。おまえずっと紘といたのに俺に教えなかったからな」
「それは知らなかったからだろうが。おまえそういうキャラなんだな。気持ち悪いよ」
真柴先輩が変な顔をした。
そうか。真柴先輩が風紀副委員長で、御影が風紀委員長ってことは、ふたりは知り合いだったということなんだ。
(もしかしたら、ぼくが御影のことを真柴先輩や水無瀬先輩に話してたら、もうすこしぐしゃぐしゃにならずに済んだのかも)
この腕に抱かれている今、これ以上贅沢なことは言わないけれど。
「宝生委員長。……あと、会長に色々言ってくれたみたいで、ありがとう」
「いや。まあそれは、おまえの真柴が風紀室でため息ばっかつくから」
「そうか……おれの志野ちゃんがーねー」
「おい宝生! てめえだれが水無瀬のだと!?」
「事実だろうが」
子どもみたいに御影につっかかる真柴先輩と、なだめながらもまんざらでもない水無瀬。そんな、戻ってきたような日常に、くすりと笑みがこぼれた。こちらを見て一瞬驚いた御影が、「笑ったな」と、ぼくをせいいっぱい甘やかすように抱きしめる。
バカップルも考えもんだなという呆れたような真柴先輩の声が聞こえたような気がした。
隠 者 の 冒 涜
(ええ!? でも委員長ってことは、御影、せんぱいだ! 御影先輩!)
(その言い方もなかなかイイが、まあ、御影でいい)
(委員長、キャラほんとうに変わっちゃったみたいだなあ)
――end――
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