16
(うわああ)
かあ、と顔に一気に熱が集まる。火をふきそう。
「あの……御影」
「なに」
「腕、放して……やだ」
「はあ? 無理に決まってんだろう。こっちは限界なんだよ」
紘不足――耳元で呟かれて、心臓が鷲掴みにされたみたいに苦しくなる。
「うう……っ」
やっぱり御影は破壊力抜群だ。男のぼくから見ても、かっこよすぎて死ねる。きっと御影はぼくをドキドキさせて殺す気なんだ。
回された手に、一層力が籠る。
だけどそんな御影がぼくは、すき、なんだ。
ぎゅ、とおなかに回った御影の腕をつかむ。だけど絶対に顔を見られたくなくて、俯いた。
一瞬だけ、食堂がざわついたのが分かった。ついでに御影の舌打ちも。それに驚いて顔を上げた拍子に見えたギャラリーは、心なしかみんな顔が赤い。
ていうか今御影舌打ちした! なんか怒った!
「ち、邪魔だなギャラリーはよお。だからいやだったんだ」
「御影……?」
腕がゆるんだかと思うと、くるりと体の向きを変えさせられる。驚くぼくをよそに、御影がかがんでぼくの顔を覗きこむようにして、頬に手を合わせてきた。
長い指先が、壊れ物でも扱うようにぼくの頬を撫でる。
「濡れてるな」
「う……大丈夫だよ」
御影の瞳、深くて、吸い込まれそうだ。
むしろぼくは、今いたいよ。心臓が壊れそうで。
「手もやけどしてるみたいだし、さっさとこんなところ出るぞ」
「え、うん」
「な! な! 待てよおまえ!! 紘も待て!!」
ぼくの腕をやさしく引いて、周囲の目なんて歯牙にもかけず去ろうとする背中に、さっきまで不気味なほど静かだったあの声がかかる。
立ち止まった御影に、ぼくの体はすっと凍りついた。
(もし――)
もし長島くんが、御影に興味を持ったら――。
「なあおまえだれだよ!? すっごくかっこいいな!!」
いつもの二倍くらいの声量が、食堂をガンガン響く。その声量に、ぼくは思わず肩を縮こまらせた。御影の背中は動かない。
もし御影が、長島くんを気に入ったら――。
ぎゅう、とさっき以上に胸が潰れる。ぼく、嫉妬、しているんだ。御影を、だれにもさわらせたくなくて。
強張った御影と繋いでいる手で、大きな手に、ほんのすこしだけ力を入れる。この不安が御影にバレないように、ほんのすこしだけ。
――ぎゅ。
その何倍もの強さで、御影がぼくの手を握る。え、と思って、見上げれば、甘やかすような御影の笑みが広がっている。
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