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(うわああ)


 かあ、と顔に一気に熱が集まる。火をふきそう。


「あの……御影」

「なに」

「腕、放して……やだ」

「はあ? 無理に決まってんだろう。こっちは限界なんだよ」


 紘不足――耳元で呟かれて、心臓が鷲掴みにされたみたいに苦しくなる。


「うう……っ」


 やっぱり御影は破壊力抜群だ。男のぼくから見ても、かっこよすぎて死ねる。きっと御影はぼくをドキドキさせて殺す気なんだ。

 回された手に、一層力が籠る。

 だけどそんな御影がぼくは、すき、なんだ。


 ぎゅ、とおなかに回った御影の腕をつかむ。だけど絶対に顔を見られたくなくて、俯いた。

 一瞬だけ、食堂がざわついたのが分かった。ついでに御影の舌打ちも。それに驚いて顔を上げた拍子に見えたギャラリーは、心なしかみんな顔が赤い。

 ていうか今御影舌打ちした! なんか怒った!


「ち、邪魔だなギャラリーはよお。だからいやだったんだ」

「御影……?」


 腕がゆるんだかと思うと、くるりと体の向きを変えさせられる。驚くぼくをよそに、御影がかがんでぼくの顔を覗きこむようにして、頬に手を合わせてきた。

 長い指先が、壊れ物でも扱うようにぼくの頬を撫でる。


「濡れてるな」

「う……大丈夫だよ」


 御影の瞳、深くて、吸い込まれそうだ。

 むしろぼくは、今いたいよ。心臓が壊れそうで。


「手もやけどしてるみたいだし、さっさとこんなところ出るぞ」

「え、うん」

「な! な! 待てよおまえ!! 紘も待て!!」


 ぼくの腕をやさしく引いて、周囲の目なんて歯牙にもかけず去ろうとする背中に、さっきまで不気味なほど静かだったあの声がかかる。

 立ち止まった御影に、ぼくの体はすっと凍りついた。


(もし――)


 もし長島くんが、御影に興味を持ったら――。


「なあおまえだれだよ!? すっごくかっこいいな!!」


 いつもの二倍くらいの声量が、食堂をガンガン響く。その声量に、ぼくは思わず肩を縮こまらせた。御影の背中は動かない。

 もし御影が、長島くんを気に入ったら――。

 ぎゅう、とさっき以上に胸が潰れる。ぼく、嫉妬、しているんだ。御影を、だれにもさわらせたくなくて。


 強張った御影と繋いでいる手で、大きな手に、ほんのすこしだけ力を入れる。この不安が御影にバレないように、ほんのすこしだけ。


 ――ぎゅ。


 その何倍もの強さで、御影がぼくの手を握る。え、と思って、見上げれば、甘やかすような御影の笑みが広がっている。



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