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(ぼくは――)


 それは、小さくともぼくのなかに確かに芽生えた、まぎれもない意志だ。


(ぼくはこんな人たちのために泣きたくない)


 唇を噛みしめる。


「ああ、確かに無能な親衛隊たちからそんな情報をもらったな。ひかるの周りを付きまとって、あわよくばぼくたちと――、なんていう汚らしいことだがな」

「紘! そんなことしたら友達いなくなるぞ! だけどおれは大丈夫だぞ!! 紘は最低だけど、おれがそばにいてやるよ!! 紘!」


 紘、紘、紘。

 頭の中を駆け巡る、呪いのような自分の名前。大きな叫び声みたいな声で呼ばれる名前。

 俯いた先に、涙ですこしだけ歪んだ視界のなか、ぼくのあまりにも頼りない足先が見える。


 ぼくが、長島くんの周りを付きまとって、あわよくば生徒会役員と繋がりを持つ?

 ぼくが、生徒会役員に憧れている?


 そんなの――。拳を握りしめる。


「紘、どうした?」


 こちらを伺うようにして見てくる歪んだ双眸から、掴まれていた手を振りあげて払った。パシンという音に、食堂が一瞬で静まったことに、ぼくは気づかない。


「紘、おい、おれはほんとうになんとも思ってないぞ! だからそんなに落ち込むこと――」

「ちがう……」


 ――マリモ美形だいすきだし、志野ちゃんは餌食になるよ。そんなのいやだし、志野ちゃんにはおれだけを見ていてほしーし。

 ――今更脇見なんかするかよ。……それに、美形ならむしろおまえだろうが。おまえ、最初のほうめっちゃ付きまとわれてたし。

 ――でも見向きもしなかったー。


 ふたりが教えてくれた、ぼくのほんとうの気持ち。

 御影への気持ちまで、この人たちに否定される義理なんて、ないんだ。


「ぼくは」

「なんだあおまえ、聞こえねえよ」

「「うざーい」」


「ぼくには、すきなひとがいます」


 震えそうになる声をぎゅっと堪えて、喉に、おなかに、力を入れる。ぼくの意志だ。

 その言葉に、役員たちが一瞬だけ豆鉄砲を食らったような顔をした。


「ぼくのすきなひとは、ぼくのことを大切にしてくれるひとです。だから、それ以外のひとに興味はありません。だから、先輩たちのことも――」


 ぼくのすきなひとは、大きなやさしさでぼくを包み込んでくれた。ぼくはそのひとをすきになれたことが誇りだ。ぜったいに曲げられないもの。


「分かった」


 遮ったのは、会長だった。深く目を閉じるようにして考えた後、切れ目の双眸がじ、とこちらを見てくる。

 ごくり、と、生唾を飲んだ。

 さっきのような驚いた顔はすっかり息を潜めて、再び無表情になった会長が近づいてくる。その勢いに気押されながらも、ぐっと踏みとどまる。



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あきゅろす。
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