13
長島くんに引きずられ連れ回されていたときは幾度となく通った食堂だったが、水無瀬先輩に拾われてからというもののすっかり足を運ばなくなっていた。
長島くんとぼくに向けられる、遠慮のない不躾な視線。長島くんがなにも気にしていなかった分、肩身の狭い思いをしたのが甦る。食堂はなんら変わりなく、あからさまに悪意と軽蔑を持ってこちらを睨むものもいれば、遠巻きに様子だけでもというようにちら見するものもいる。
「ごはんだ! 今日なに食べようかな!! 紘おまえなに食うんだ!?」
「ぼく、おなかすいてないから」
ほんとうだ。すっかり食欲が引っ込んでしまった。
「おまえそんなんじゃだめだぞ!! だからこんなに細いんだ!!」
「痛いよ、長島くん」
「だからひかるでいいって言ってるだろう!」
成立しない会話に、頭がおかしくなりそうだ。
前は我慢できたのに今は我慢出来ない。つらいと声を大にして叫びそうになる。やめてと。
前は知らなかった。水無瀬先輩や真柴先輩のことも、御影への気持ちも。
だけど知ってしまったから、欲張りになる。ここへいたくないと。
「あ、いたいた! おーい! 来たぜ!」
その言葉に、顔がこわばり、体が石のように固くなるのを感じた。まぎれもない拒否反応だ。
「ひかる、待ちくたびれましたよ」
「「ひかるおそーい! でもいいよひかるだから!」」
「おい……おまえその後ろのなんだ」
びくり、と、体がすくむ。
会長が、長島くんの影に隠れるようにして俯いているのだろうぼくに、一番最初に気づいたみたいだ。
「「ほんとうだ、なんでいるのー?」」
「また君ですか」
冷ややかな視線に、「ごめんなさい」と小さく呟いた。どこまで聞こえているかなんて分からないけれど。
「おまえら紘をいじめるなよ! おれたち今から飯食うから!」
「もちろん待っていましたよ、ひかる。でもその前に、その平民はどこかに置いてきなさい」
「どうしてそういうこと言うんだ!! おまえらおれが紘のことかまうから嫉妬してるのか!? 大丈夫だよおれはおまえらのことちゃんと好きだぞ! 紘は馬鹿だから面倒みてやってるだけだ!」
酷い言い草だ、ほんとうに。言い返したいのに、言い返せない自分が一番きらいだ。
ふと、いつの間にか目の前に来ていたのだろう、会長が、おれの腕を捻るように掴んだ。
「……っ」
(そこ、さっき――)
異常な痛みが走る。さっきコーヒーをかぶったところだ。
「おまえ、どうしてひかるの周りにいる……まさかおれたちとお近づきになりたいとかそういうこと考えてるんじゃねーだろうな」
「「やだやだーひかるは大歓迎だけど、君はいやだよー」」
「そうなのか紘!! おまえ人を使うなんて、しちゃだめだぞ!」
「ちが……っ」
あまりの痛さに、会長の腕を突っぱねるようにして放させる。じわりと、目に涙が浮かぶのは、きっと左手の痛みのせいだ。
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