10
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はじめて見たときよりも随分と生徒会室から溜まりに溜まっていた書類が消えてきた頃のことだ。いつも通りすっかり慣れた足取りで、ぼくは生徒会室に向かう。
生徒会役員の親衛隊からの小さな嫌がらせはずるずると継続されて行われているものの、不思議なことに水無瀬先輩の親衛隊や真柴先輩のファンクラブ(聞くところによると公式ではないので親衛隊を名乗らないらしい)からの嫌がらせはない。
きっとふたりが細心の注意を払ってくれているのだろう。
もう水無瀬先輩はたっぷり数時間ほど書類と向き合っていることだろう。なにか、コーヒーでもいれてやろう。そう思いながら生徒会室の扉を開けようとする。
すると、ドアの向こうから聞き慣れたもうひとつの声がする。
「……すな、おまえの――」
「……が……しょう、……」
「……っ」
なんだ、今日は早い。真柴先輩が来ているみたいだ。そう思いながら生徒会室のドアノブに手をかけると、がたん、という衝撃音が聞こえる。
(水無瀬先輩が椅子からおっこったのかな)
わりと、ドジなところあるからなあ。
なんて思いながらドアを開けたぼくは、ほんとうに呑気だなあなんて、思う。
目の前に広がった光景に、絶句する。
「え……うわ! 紘っ」
固めのソファに覆いかぶさる水無瀬先輩の後ろ姿。押さえこまれるように下敷きになっているのは、真柴先輩、だよね? え?
かかか、と頬が熱くなるのが自分でも分かる。
「えっと……おじゃま、しました」
「待て閉めんな! 水無瀬どきやがれ!」
「む」
水無瀬先輩が不満そうに退くと、真柴先輩が勢いよくドアを閉めようとしたぼくの体を引っ張り込んだ。だから結局お邪魔しましたすることはできなかったのだけど。
気づいた。真柴先輩の顔が、ぼくよりもきっとずっと真っ赤に染まっていることに。
「あの、えと……」
「誤解だ……」
「誤解? ほんとうのことでしょう、志野ちゃん」
「もー……おまえは黙ってろ」
「む」
つまり水無瀬先輩と真柴先輩って。もしかして。
「こいびとどうし?」
小首を傾げながら言ったぼくの言葉に、真柴先輩はキャパ―オーバーというようにその場にへたりこむ。恥ずかしすぎて死にたい、なんて聞こえる。
ぼくを助けてくれて、一番に気にかけてくれたひとが、恋人同士なんだ。そう考えて、不思議と心が温かくなるような感じがした。
「志野ちゃんは、恥ずかしがり屋だからね」
「うるさい」
座り込んだ真柴先輩を立たせるように、水無瀬先輩がその体を持ち上げた。ごく自然な動作で、ふたりがちょっとやそっとの期間付き合った恋人同士でないことだけは分かる。
なんだか、こちらまでどぎまぎしてしまう。
「おまえ触るなよ」
「いいでしょー。もうバレちゃったんだから」
真柴先輩が風紀とはいえどしょっちゅう生徒会室に足を運んでいるのは、水無瀬先輩が真柴先輩を志野ちゃんと呼んで懐いているのは、……ただふたりが仲のいい友人というだけじゃなかったんだ。
「なんだか、ふたりが恋人同士なんて、ぼく嬉しいです」
「なんでだよ……」
「……それは、なんでだろう」
えへへ、と笑っていると、真柴先輩が「おまえはほんとう、癒し系だよなあ」と呟いてぼくの頭をぐりぐり撫でた。後ろで水無瀬先輩も頷いている。
「そうでしょうか?」
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