novel
Fortune cross
1.木霊する記憶






お茶っ葉を、一匙。
一杯淹れるんだったら、二杯。二杯淹れるんだったら、三杯。淹れる分の茶より一匙多く、急須に落とす。
お湯はその前に湯呑みに淹れて冷ましておく。熱いまま淹れると出すぎるためだ。
少し冷ましたお湯を急須に入れる。蒸らす。ここのさじ加減が重要だ。ほどよく蒸らしたら、ようやくここで湯呑みにそそぐ。
上手いお茶の淹れ方――かつて副官に教わったやり方である。





「どうぞ」
コン、と静かに湯呑みを卓に置く。手習いをしていた人物はその音に顔を上げた。いかつい顔をした、どことなく風格がただよう男。
「おお、ありがとう、日番谷君」
「……どうも」
無愛想に日番谷は頷いた。湯呑みを乗せていた盆を手拭いで軽く拭く。
「近藤局長、……他に、何かやることは」
「ん?うむ……特にはないかな。鉄之助君が終わっていない仕事があったらそっちを手伝ってやってくれ。それも終わったら稽古に行けばいい」
「わかりました」
日番谷は一礼して部屋を後にした。


*******



ミーンミンミンミン……。
うるさいくらいに蝉の声が響いている。日番谷は顔をしかめて額の汗を拭った。暑い。元々暑さは苦手なのだ――元の世界にいた時よりはマシになっているが。
元の世界。
その言葉を思い浮かべて日番谷は一層顔をしかめた。そう、ここは日番谷が本来いるべき場所ではない。

「シーローちゃんっ」
別の理由で顔をしかめ、日番谷は振り向いた。果たしてそこには予想通りの面々。
見上げるような大男、原田左之助。日番谷とあまり背の変わらない永倉新八。間に位置する藤堂平助。漫才トリオとして名高い三人組である。そしてことあるごとに日番谷に構ってきて少々うざったい三人組、でもある。
「なーに一人でたそがれちゃってんの!?」
「おうおう、何かお叱りくらったかシロちゃんよ!?!?」
「いやいやー子犬くんじゃないからそれはないだろ」
「……てめぇら、何の用だ」
日番谷は何の用だとため息をつく。用がなくても絡んでくるのがこの三人なのだが。
「何の用かって!?そりゃあ!」
「シロちゃんを稽古に誘いに来たのよ」
「だから、その呼び方はやめろ!」
「なんで?ぴったりじゃん。ふわふわの銀色の毛に翡翠の瞳!ちっちぇしかわいい!」
「んだとてめぇ!」
「まぁまぁまぁ」
自覚なしに口が悪い藤堂に日番谷が掴みかかろうとすると、間に永倉が割って入った。
「別に怒らせるために来たんじゃないのよ、俺タチ。くさくさしてないで体動かした方がいいぜ?てなわけでほら、道場行きましょ道場!」
「お、おい!」
永倉はぐいぐいと原田と藤堂を道場の方へ押しやった。相変わらず下らない話をしている二人の後ろで日番谷に並び、二人には聞かれないよう小声で永倉は日番谷に聞いた。



「……で、記憶は戻りそうなのか?」
日番谷は黙って首を横に振る。
「そうか」
先ほどとはうってかわって厳しい表情になった永倉の横顔を眺めた。コイツも三人の中では一番の常識人かつ苦労人だよな、とぼんやり思う。



本当は、何もかもなくしてはいない。
ただ、――わからないのだ。どうすればいいのか。どうやったら戻れるのか。







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前に日記でつぶやいたネタを形にしてみました。あ、れ…?予想外にシリアス。もっと明るくなる予定だったんですが(汗)
皆さんどう思われるんでしょうか…不評だったらそのうち消えてるかもしれません(笑)


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