novel
お前の馬鹿について行けるのは俺ぐらいだろ
晴れ上がった青い空。
透き通るような高い空に、歓声が吸い込まれていく。



場所は空座町の一角。世間は祝日。ストリートバスケの大会が行われていた。
年に一度行われるそこそこ大きい大会で、優勝したチームには賞金も出る。何よりフープでの名が高まる。それらを目当てに集ったチームが熱戦を繰り広げていた。
山ほどあったチームも戦いを経るうちに淘汰され、残るは8チーム。
大会は中盤を過ぎ、準々決勝に差し掛かっていた。
ドリブルの音。バッシュが地面を擦る音。ボールがネットをすり抜ける音。様々な音が歓声に混じって響いている。


*******



「くっそー!」
タイムアウトを申請して、コート脇に下がる。途端に一護は頭をガリガリと掻いた。透明な汗が滴り落ちる。
「少し落ち着け、黒崎」
冷静そのものといった仕草で、日番谷はペットボトルを一護に放り投げた。自身も蓋を開けて口を付ける。中身はスポーツ飲料だ。普段飲むには甘すぎると感じるが、運動中だとちょうどいいくらいだ。
「テメーは落ち着きすぎだ、冬獅郎!」
受け取ったペットボトルの中身を干して、一護は文句を垂れる。それを後目に日番谷はスコアボードに目を向けた。
20対28で8点のビハインド。これ以上離されるとちょっとまずい。
日番谷はさらにもう一人のチームメイトに目を向けた。肩で息をしている恋次はタイムアウトに入ってから一言も話していない。
「大丈夫か、阿散井」
「……大丈夫じゃねぇって言ってもどうしようもないだろ」
確かにその通りだ。日番谷達のチームは三人ギリギリ、交代要員がいない。しかしこのままでは阿散井への負担が多すぎる、と日番谷は思考を巡らせた。

――チーム「BLEACH」。
ポイントガード日番谷、フォワード一護、センター恋次の三人組だ。日番谷が小柄なため、平均身長はかなり低い。
対する相手は皆190センチ級のため、身長差がかなりキツかった。一番長身の恋次でさえマッチアップする相手とは10センチ近く、日番谷に至っては30センチ以上身長差があるのだ。
先ほどから身長差を生かす攻防をされて、この様だ。それでもセンターである阿散井が持ち前の運動能力を生かしてリバウンドの大半を拾ってくれているため、この点差で済んでいる。

「あぁもう、なんなんだよ揃いも揃ってデカブツばっか!くそっ、アイツらの上からガツンとぶちかましてやりてぇ!」
苛立ち紛れに吐き捨てた一護の言葉に――閃いた。
「……それだ」
「は?」
「おい黒崎、阿散井、耳貸せ」





ピッ。
笛の音が鳴って、辺りがシンと静まり返る。相手チームのフリースローだ。
フリースローラインに立った相手のポイントガードが、審判から渡されたボールを構える。
パスン。
綺麗に弧を描き、ボールがネットをすり抜けた。

作戦開始だ。
ボールをすばやく手に取り恋次がコートから出る。スローインだ。相手を振り切って飛び出した日番谷に、恋次がパスをした。
フリースローの後で体勢が整ってないところにすかさず、スリーポイント!
「……ッ!」
スリーポイントはフェイク。
泡を食って止めに来たポイントガードを、日番谷はドリブル二つで抜き去った。残るは二人。予想通りヘルプで日番谷を止めに相手のフォワードが来たのを見て、日番谷はニヤリと笑った。


ゴール前には恋次と相手のセンター。それに向かって駆け込む一護。


日番谷は思いっきりボールに回転をかけて高いパスを出した。ほとんどの観客がそれをシュートだと思った。
そして観客同様、それをシュートだと思った相手のセンターは、リバウンドに備えポジションを取る。
一方恋次は中腰になって膝の上に両手を上にして乗せる。その手目掛けて一護は跳んだ!
――次の瞬間、恋次は全身のバネを使って一護を投げていた。
元々のジャンプ力に恋次の力を加えた一護は、手を伸ばして空を舞うボールに両手を伸ばした。



――ガツン!!
見事なアリウープが決まって、爆発のような歓声が弾けた。


*******



「あーあ、惜しかったな」
大会の帰り道、腕を頭の後ろで組んだ一護はゆっくりと歩きながら言った。肩には着替えとボールの入ったナップサックがかかっている。
「でもまぁ、あれはよかったよな」
「そうそう、あのアリウープ!相手のセンター、ぽかんとしてたぜ」
「ま、スクリーンアウトして待ってのにいきなりアリウープが来りゃ驚くだろうよ」
アリウープといえど所詮は2点。あの後、日番谷達は点差をひっくり返せずに終わった。準々決勝止まりだ。
「にしても楽しかったな!」
「公式じゃできねぇもんな、こんなの」
「たりめェだ。やったらレギュラー外すぞ、おまえら」
「おまえが作戦立てたんだろ!?」
「俺はポイントガードだからな、仕事をしたまでだ」
しれっと言い放った日番谷に、一護は言葉を失った。ついで喉の奥から笑いが込み上げる。

「……くくっ」
「なんだよおまえ。気持ち悪ィ」
「いや、おまえの無茶についてけるのなんて俺らくらいだろうな、って思って」
「それを言うならおまえらの馬鹿について行けるのも俺くらいだ」
気持ち悪いくらいの満面の笑みを浮かべた二人の顔を見ないようにして日番谷は追い抜く。

日番谷は空を見上げた。燦々と降り注ぐ太陽。もうすぐ夏が終わろうとしている。
「……もうすぐ新人戦だ。ストリートばっかで本業おろそかにすんじゃねぇぞ」
「「おっす、キャプテン」」
後ろから揃った声が響いて、日番谷は二人に見えないところでひっそりと笑った。








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あきゅろす。
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