彩雲国小説
嘘を積み重ねた空中楼閣
紅家の広い湯船に背中を預け、縁に頭を乗せて上向く。
頭の奥にずきりと重い疼痛を感じて眉間に皺を寄せた。
湯気でふわりと揺れる淡い光さえも目に痛い。絳攸は重い腕を持ち上げて閉じたまぶたの上に乗せた。
「……っう」
少し体勢をずらした途端、下腹部に走った鈍痛に顔をしかめる。どこもかしこも疲れて痛いなんて最悪だ。
最悪な気分だった。風呂に品良く香る花の香りさえもが気持ち悪い。

キモチワルイ。

「…………ッ!」
吐きそうになって、あわてて湯船の外に顔を出す。しかし空っぽの胃から何も出てこずに、ただむかむかとした釈然としなさだけが残る。
(……最悪だ)
改めてそう思った。
湯船を見渡せば、絳攸の周辺にだけ白いものが漂っている。
その正体に自嘲する。
「何をやってるんだ、俺は……」
そしてあの男も。





最初は酒の席だった。
絳攸が絡みに絡んで、ぐでんぐでんに酔っ払って――気づけば唇が重なっていた。振りほどこうとして、しかしできなかった。
力が入らなかったこともさることながら、その目に力を奪われた。
熱っぽい、しかしどこか底の見えないその瞳に吸い込まれて……いつの間にか絳攸からも舌を絡め。
後はもう思い出したくない。

次の日の楸瑛はいたって普通で、いつも通りだった。だから絳攸もいつも通りにからかわれたことに怒り本を投げつけた。
そうして――互いに触れないように蓋をして、体を重ねたのはもう何度目になるだろうか。
楸瑛は何も言わない。閨の中ですらも最低限絳攸を気づかう声だけで。

だから口下手な絳攸はなおさら何も言えない。





瞳の奥がチカチカと点滅する。絳攸は目を閉じて襲ってくる不快感に耐えた。
巡る思考はぐるぐると同じ所を何度もなぞり、沈んで澱む。
何が何だかわからない。抵抗しない自分も、何も言わないあいつも。
「うっ……」
ツンとした酸っぱい匂いが胃の底からこみ上げ、黄色い胃液が口からこぼれた。
苦しい。

苦しくて苦しくて苦しくて――涙がすうっと流れて湯に溶けた。






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