彩雲国小説
僕の「本当」
※にょた





その日、筆を滑らせる片割れの手のほんのわずかの変化に気づいたのは、楸瑛が楸瑛だったからだろう。

「絳攸、珍しいね。何の心境の変化?」
「知らん」
「知らんって、君の爪でしょう」
無頓着な絳攸に呆れて楸瑛が言うと、絳攸は顔の前に手をかざしてしげしげと眺めた。
その爪は珍しくも美爪術が施されている。
「私がやったわけじゃない。ほったらかしにし過ぎて伸びすぎてな……百合さんが切って手入れしてくれたんだ」
筆を握るのに邪魔にならないよう配慮された短めの爪は、派手すぎない薄い桜色に塗られていて、絳攸の白い手の美しさを損なうことなく際だたせ――、


「きれいだよ。とてもよく似合ってる」
ぽん、と音がしそうなくらいみるみる絳攸は真っ赤になった。


「う、ううううるさい!無駄口叩く暇があったら仕事をやれっ!!」
これをやれという意味なのか、次々と未決済の書簡が飛んでくる。次々に繰り出される書簡を受け止めつつ、楸瑛は――、

「にやにやするなっ、気色悪い!」
たっぷりとそのかわいい反応を堪能した。



次の日、色が落とされいつもと同じになった絳攸の手に、楸瑛は楸瑛で珍しく本気でがっかりした。







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あきゅろす。
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