彩雲国小説
朝一番
「なんっでこんな格好になるんだッ!?」
朝っぱらから盛大に絳攸は怒鳴った。――楸瑛の腕の中で。
「離せッ」
「いいじゃないか、絳攸。そんなに恥ずかしがらなくても」
余裕の笑みを浮かべる楸瑛はそんなに力を入れているようには見えないのに、満身の力を込めて押しやろうとしてもびくともしない。

昨日、あまりに仕事が遅くなったため仮眠室で寝たのだ――それは覚えている。「おやすみ」と楸瑛が言った声を薄れゆく意識の中で聞いたこともなんとなく。だがしかし、こんな体勢で寝た覚えはないし許した覚えもない。
「だいたい何でこんな格好で寝るんだ!?」
楸瑛はけだるそうに髪をかきあげながら答えた。それでも反対側の手で抱きしめている手は離さない。
「こうして寝れば動けないだろう?蹴られないで済むかと思ってね。君はどうやらずいぶん寝相が悪いみたいだし」
ぐっ、と絳攸は詰まった。

「そ、それは……」
寝相が悪いという自覚はある。朝起きたら布団が落ちていて寒いということもしばしばだし、それで風邪を引きかけたことも何度かある。
「……蹴ったのか?」
「それはもう、私の腹を思いっきりね。きっと君は羽林軍でもやっていけるよ絳攸、いい蹴りだった」
実際は鍛え上げられた腹筋のおかげでさして痛くはなかったが、ここぞとばかりに強調しておく。絳攸のうろたえる表情がかわいかったので。
絳攸はうろうろと視線をさまよわせて、寝相が悪いと指摘された羞恥からかほんのり頬が赤く染まっている。普段は見れないおろし髪も、少し乱れた袷から覗く白い肌も――少々目に痛いくらいに眼福だ。

「わ……」
「わ?」
言いたいことはわかっていながら、にっこり笑って続きを促す。絳攸はめったに謝意も謝罪もあらわそうとしないので貴重だ。
「……わ、悪かった」
めったに聞けない謝罪の言葉に楸瑛は目を細め――、
「よくできました」
楸瑛は絳攸の髪をかきやり、ちょうどいい高さにある額に口付けた。




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