彩雲国小説
本音と建前、それから現実
この一ヶ月そうしてきたように、楸瑛は読書にふける絳攸をじっと見つめていた。
陽光が差して、銀糸の髪がきらめく。前髪の奥に隠されたきれいな菫色の瞳は本に伏せられていて、全然こちらを向いてくれないのが少し寂しい。せっかく二人きりなのに。

「ねえ、絳攸」
絳攸はピクリと反応したが、返事はない。
「こーうゆう」
無言。
「絳攸ってば」
返事なし。楸瑛は違う手で攻めてみることにした。

「……あ、あんなところに主上が」
「なにっ!?」
案の定、あっさり引っかかった絳攸は窓の外を食い入るようにして見つめて――そうしてやっとこちらを見てくれた。
「騙したな、楸瑛」
地の底を這うような低い声だが、そんな機嫌の悪い声さえ楸瑛の耳には心地よい。
「君が返事をしてくれないからだよ、絳攸。何度も呼んだのに」
ぎゅっと眉が寄せられて、絳攸は鋭く楸瑛を睨む。楸瑛はその紫水晶のような瞳が好きだった。初めて会った時から変わらず、まっすぐに見つめてくる強い瞳。



本当は、瞳だけではなくて、



「どうせロクな用じゃないんだろう。返事をするだけ無駄だ」
「ひどいな、親友に対して」
「誰が親友だッ!貴様なんか腐れ縁で十分だ!切れるのを待ってる状態なんだっ!!」
「でも君、私がいなくなったら困るだろう?道案内役がいなくなるよ」
ぐっ、と絳攸は一瞬詰まり、それから猛然と言い返してきた。
「俺には道案内なんぞ必要ない!迷ってなんかいないからな!」
「はいはい」
思わず笑みながら――絳攸曰く胡散臭い笑みだが――楸瑛は絳攸の言葉に相好を崩した。
一瞬空いた間。それは素直でない絳攸の言葉の端々に滲み出る本音。



(切れてもらっちゃ困るよ、絳攸)
親友から一歩踏み出したいと――もう何年も願っているのだから。






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