彩雲国小説
兄弟・姉妹
「……いい加減にしろー!!!!!!」
今日も今日とて、珀明の怒声が響き渡った。ひっついたままの龍蓮を無理矢理ひっぺがすと、手にした書簡が落ちないように抱え直す。

「お前、ここは僕の職場なんだぞ!」
すると龍蓮は形の良い眉をちょっと上げて答える。
「そのような些細なことに捕らわれるとは心の友その三も仕事のイライラがたまっている様子。よし、ここは一つ私の笛で」
「吹くなっ!!」
相変わらず意味不明だ。相手にするだけ体力が吸い取られていくような気がする。
さてこいつをどうしたらいいかと思案していたところに、ちょうどよく声がした。

「それ以上珀明くんに迷惑をかけるのはよしなさい、龍蓮」
「愚兄その四」
「藍将軍!」
うんざりしたような顔をして現れたのは楸瑛だった。珀明は楸瑛に対し慌てて礼を取る。
「かしこまらなくていいよ、珀明くん。その……いつも迷惑をかけてすまないね」
「いえ……」
当事者の兄の前で文句が言えるわけもなく、珀明が言葉を濁すとそれに龍蓮が割って入る。

「愚兄その四、心の友その三に迷惑をかけたとはなんたることだ。まったく嘆かわしい」
「……お前のせいだ、お前のっ!」
先ほどの考えなどどこへやら、あっさり崩れ落ちて珀明は龍蓮を怒鳴りつける。
楸瑛はというと珀明が内心を代弁してくれたので少しほっとした。
思わず怒鳴りつけてしまった珀明は、楸瑛の顔を見てはっとする。

「すみません……」
「いや、いいよ。……本当のことだしね……」
空を見る楸瑛の目はどこか遠い。珀明はその様子に何となく同情してしまった。龍蓮を弟に持つその苦労、察して余りある。
「本当に、迷惑かけてすまないね……」
「いえ……姉で慣れてますし」
本心からそう言った珀明に、楸瑛はあの美人だがキツい珀明の姉を思い出した。……確かにあの姉を持つと苦労しそうだ。
二人の心情などどこ吹く風、ぴーひょろと笛を吹く龍蓮を睥睨して楸瑛はあきらめたように笑った。

「お互い、苦労するね……」
「そうですね……」
苦笑しあう二人をさらに暗い気分に陥れたのは、言うまでもなく龍蓮の笛の音だった。






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あきゅろす。
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