彩雲国小説
カタコトの愛の言葉ささやいて
机案に頬杖をつきながら、することもなくぼんやりと楸瑛は卓の反対側の絳攸を見つめた。 なめらかに筆が動いて、一心不乱に書類を片付けてゆく。府庫で休憩中の主の分もとでもいうように熱心に仕事をする絳攸は、その神経の一片たりとも楸瑛に向けていない。
筆を置いて資料の本を引き寄せようとした絳攸の手を、楸瑛は卓の反対側から取った。絳攸の指は男にしては細めで長く、楸瑛の手にあるものとは違うところにたこがある。
「離せ。本が取れん」
「いいじゃないか。せっかく二人なんだから、少しは私の相手をしてくれても」
「貴様と関わるとロクなことにならん。仕事の方が何倍も重要だ」
「つれないね」
楸瑛はその手を引き寄せて熱い唇を落とした。
「………っっ!!」
ものすごい勢いで手を引っ込めた絳攸の顔は真っ赤に染まっている。そんな反応がまたかわいいと思う。怒りなのか羞恥なのか判別がつかないが。
「貴っ様……何をする!」
「何って」
「そういうことは女にやれ!!」
この常春が!という決まり文句と共に素晴らしい速度で本が飛んでくる。相変わらずいい肩をしている。
「だいたい貴様、何でそんな暇そうにしてるんだ、仕事をやれ、仕事を!この書類の山が見えないのか!!」
「見えないね」
だって、とにっこり笑って楸瑛は付け加えた。


「私には君しか見えてないから」


めずらしくもその本音を告げた楸瑛は――しかし次の瞬間書簡と本の大量襲撃に見舞われることとなった。







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あきゅろす。
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