彩雲国小説
逆らえない、 下
まぶしい光が顔に当たって、絳攸は小さく身じろぎした。
寝返りを打って、柔らかい毛布をきゅっと抱え込んで丸くなる。……そこまでして意識が浮上し始めた。
(……明るい?)
いやまさか昼だろう、せいぜい寝ていても一刻か二刻のものだろう、と思って窓にかけより外を見る。

「朝だ……」
まごうことなき爽やかな朝だった。
自失したのは一瞬、絳攸はすぐに修羅場と化しているはずの執務室に走った。





「楸瑛!」
バタンッッ、と派手な音を立てて絳攸は執務室の扉を開いた。
「ああ、おはよう、絳攸」
「おはようじゃない!」
一目見て寝てないことが知れる楸瑛に迫って、頭に血が昇っていた絳攸は思わず胸ぐらを掴み上げる。
「どうして起こしてくれなかったんだ!俺が呑気に寝こけてる間に、書簡が……書簡が?」
ふと辺りを見回すと、昨日より格段に減った書簡の(山よりは穏やかな)丘。

「昨日あった分はあらかた決裁し終わったよ。そこにあるのは君の印がないと動かせないものだけ」
「……バカ、野郎……」
そんな、目の下にくっきり隈を作って、今度はおまえが寝てないじゃないかバカ野郎。
いつもかっこつけてるくせにそんな恰好じゃ台無しだバカ野郎。
だが口から出てきたのは罵倒の言葉ではなかった。


「ありがとう……」


うつむいたままそう言うと、視界の外の楸瑛がそっと笑う気配がして、優しい手が絳攸の頭に乗った。







BACK




あきゅろす。
無料HPエムペ!