彩雲国小説
逆らえない、 上
眠い。
ひたすら眠い。
書簡の内容よりひたすらその言葉が頭を巡り、あわてて書簡に意識を戻す、ということをさっきから絳攸は繰り返していた。
不意に、ふぅっ、と一瞬気が遠くなりかけて我に返る。
(危ない、危ない)
今は執務中なのだ。寝るわけにはいかない。
――たとえここ一週間徹夜していたとしても。
ぷるぷると頭を振って筆を握り直す。

「絳攸?」
「何でもない」
「何でもなくないだろう。何日寝てないんだい?顔色が悪いよ」
「楸瑛の言う通りだぞ、絳攸。少し寝た方がいい」
「バカ言え。この量で寝れると思ってるのか」
俺が寝れないのは誰のせいだと思ってるんだこのバカが、と八つ当たり気味に言えば劉輝はしゅんとしてうつむいた。言い過ぎたかな、とちらりと後悔がよぎる。実際はこの一週間吏部の仕事ばかりだったのに。
そうこう考えているうちにまた眠気が襲ってきて――グラリと頭が傾ぐ。その勢いのまま、


ごちん、と執務机に頭をぶつけた。


「〜〜〜〜ッッ!!」
「絳攸!?」
二人の声が遠くから聞こえた気がした。額を押さえてうずくまる。
痛い。地味に痛い。
「絳攸」
聞きなれた声音に顔を上げれば、いつの間に近くにきていたのか楸瑛が机の傍らに立っていた。
「寝なさい」
「――っまだやれる!」
楸瑛の手が額を押さえる手をそっとはずし、


少し腫れた額に唇で触れた。


「寝なさい」
「…………。……わかった」





二人の様子に、完全に蚊帳の外に置かれた劉輝がボソッとつぶやいた。
「そういうことは別の場所でやってほしいのだ……」
彩雲国至高の身分を持つはずの劉輝は、今最も哀れな人物だった。






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