彩雲国小説
彼を手に入れるそのために
彼ら二人以外誰もいない放課後に、時折テキストをめくる紙のこすれる音と文字を書く音だけが響いている。
英語の宿題をやっていた楸瑛はふと手を止め、後ろを振り向いた。後ろでは絳攸が複雑な計算式と格闘中だ。
「ねえ絳攸、知ってる?」
「何をだ」
楸瑛は絳攸のシャーペンを取り上げ、サラサラとノートにすべらせた。いつだったか聞いた、ずいぶん感心した覚えのあるその単語。



to-get-her――together。



「together?」
「そう。彼女を手に入れるためには一緒にいなきゃいけない。それが語源で、くっついてこうなったんだって」
ふん、と絳攸は鼻で笑った。
「アホらしい。どうやらそいつはおまえみたいな常春だったらしいな」
「相変わらずひどいことを言うな。せっかくこうして一緒にいるのにそっけない」
「別に一緒にいてくれなんて頼んだ覚えはない」
「でも君、学校で一人残って勉強して、その後家に帰れるの?」
「う、うううるさいっっ!!」
楸瑛はすかさず飛んできたボールペンをキャッチした。というかペン先が出ている。
「……これ、刺さったら痛いと思うんだけど」
「刺されば少しはその頭のもマシになるんじゃないのか」
絳攸はそう吐き捨てると勉強に戻った。

一緒に。楸瑛がその言葉に込めた想いも知らないで。



to get her――いや、himだけど。



楸瑛は自分が書いた文字に視線を落とした。視線に気づいた絳攸はゴシゴシと消しゴムで消してしまう。
邪魔しやがって、とその瞳が雄弁に語っている。



後にも先にもたぶん、ずっと一緒にいたいと思うのは彼一人。






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あきゅろす。
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