彩雲国小説
キミノテ
頭ひとつ分小さいその後ろ姿を見つけて楸瑛はほくそ笑んだ。相変わらずあっちへ行ったりこっちへ行ったりうろうろ迷っている。
楸瑛は気配を消してこっそり後ろから近づいて、――その瞳を両手で塞いだ。
「だーれだ?」
「……楸瑛ッ!バカなことをしてるな離せ!」
「ご名答」
楸瑛は言われた通り手を離した。途端にくるりと絳攸は体ごと振り向いて、怒った顔を向けてくる。
「よくわかったね、絳攸」
「当たり前だ、おまえ以外にあんなバカなことをする奴はいない」
「ひどいな」
口ではそう言っていても頬は緩むのをこらえ切れない。
ちゃんと楸瑛(じぶん)をわかってくれるのが嬉しい、とは言わないけれど。
くるくるとよく動く紫色の瞳には、うれしそうな顔をした自分が映っている。肌の白さを際立てる赤い唇からは、威勢の良い罵倒の言葉がポンポンと飛び出してきて――いっそ何も言えないようにその唇を塞いでしまおうかな。絳攸が知ったら確実に鉄拳が飛んできそうなことを考える。

「さ、時間がもったいないから行こうか。主上が待ってるよ。心配してたから迎えに来たんだ」
そう言って手を差し出せば、
「……ん」
コクリと小さくうなずいて――めずらしく素直に手を預けてきた絳攸に目を丸くする。
しかし絳攸が引っ込めてしまわないようにすかさず握りしめた。傷つけないように、優しく。
「……もう冬だね。ずいぶん寒くなってきた」
「そうだな。そろそろ初雪が降る頃か」
「そうだね。そしたら雪見酒と洒落こもうか」



その時には、このぬくもりがこの手の中にありますように。


やわらかくあたたかく、――そして小さなぬくもりを感じながら、楸瑛はそんなことを思った。





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あきゅろす。
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